'70年代末に Leeds, England は Gang Of Four, Mekons, Delta 5 といった 脱 punk を特徴付けるようなバンドを輩出した。特に、Mekons のデビュー・ シングル曲 "Never Been In A Riot" は、暴動を煽るような punk に対する 脱 punk のテーゼともいえる歌だった。 Leed 一派の中では、荒い rock 風という意味で punk っぽかった Mekons は、 次第に trad 〜 country 色を深め、80年代の彼らの名盤 _Fear And Whiskey_ (Sin, SIN001, '85, LP) で、当時の言葉で言うなら cow punk、最近の言葉なら alt country とでも言うその音楽スタイルを確立した。そして、そこで フィーチャーされるようになった女性歌手が Sally Timms だ。 Sally Timms はヴェリーショートの金髪も気の強そうな容姿で、ちょっと低く 辛辣そうな歌声をしているのだが、country 風の緩く明るい曲調に乗ると、その 伸びやかな歌声は爽やかさも感じて、そこが僕は気に入っていた。 そんな Sally Timms の80年代後半のソロ・プロジェクトが Sally Timms and The Drifting Cowgirls だ。といっても、バックの The Drifting Cowgirls は ほぼ Mekons のメンバーであり、Sally Timms を歌手として全面的にフィーチャー した Mekons という内容だ。 Sally Timms and The Drifting Cowgirls _The Butcher's Boy E.P._ (T.I.M., 12MT4, '86, 12") - A1)Long Black Veil 2)Margherita B1)Butcher's Boy 2)Down From Dover - Recorded by Tony Bonner except A1 by Jon Langford and John Burns - Sally Timms, Brendan Croker, Jon Boy Langford, Bobby Worby, Steve Goulding, Chet Tayler, Kenny Braithwaite 第一弾のシングルは、country のスタンダード名曲 "Long Black Veil" の カヴァーを含むもので、その凛とした歌声がとてもかっこよい出来のカヴァー だけでも聴くに値するシングルだろう。 Sally Timms and The Drifting Cowgirls _This House Is A House Of Trouble_ (T.I.M., 12MOT6, '87, 12") - A)This House Is A House Of Trouble B1)Chained To The Anchor Of Love 2)My Little Pony - Produced by Jon Langford - Sally Timms, Brendan Croker, Steve Goulding, Rory Allam, Emma Bolland, Jon Langford; Marc Almond on A 続く "This House Is A House Of Trouble" では Marc Almond (ex-Soft Cell) とのデュエットを聴かせてくれるのだが、Au Pairs がまだ活動していたら こういう歌を歌うのではないかと思うような辛辣さ曲だ。夫婦、もしくは同棲 しているカップルの喧嘩を歌にしたもので、funk 風のビートに煽られて、 二人が激しく言葉を交わす。「あなたは〜してくれた」「僕は〜してあげた」と。 そして二人は声を重ねる。「僕は愛をあげた」「あなたは愛だけはくれなかった」。 そしてガラスが砕け散る音でこの曲が終わるとき、愛するとは具体的にどうするか、 ということが一緒に砕け散る、そんなやるせない気にさせてくれる。 ポスト・パンク・ラヴソングの中でも非常に良くできたものだろう。 Sally Timms and The Drifting Cowgirls _Somebody's Rocking My Dreamboat..._ (T.I.M., MOTLP021, '88, LP) - A1)Horses 2)I Live With A Happyman 3)Rhinestones 4)When It's Late 5)Chained To The Anchor Of Love B1)Justine 2)Down From Dover 3)Mombassa 4)Queen Of An Unfurnished Room 5)Butcher's Boy - Produced by Jon Langford with Ian Caple - Sally Timms, Brendan Croker, Jon Langford, Robert Worby, Steve Goulding, Emma Bolland, Chet Tayler, Kenny Braithwaite 二枚のシングルの後にリリースされたアルバムが、この _Somebody's Rocking My Dreamboat..._ だ。"Long Black Veil" や "This House Is A House Of Trouble" のようなぐっと惹きつけるような曲が無いので、若干地味な感は否めないが、 明るめの country 風の曲調と Sally Timms のしっかりした歌声が、特に "Chained To The Anchor Of Love" のような緩い曲で生きたアルバムになって いると思う。もちろん、当時の Mekons のアルバムに劣らないアルバムになって いるだろう。 その後、Sally Timms は Mekons のメンバーとして Chicago に移住し、そこを 拠点とする alt country のシーンの中で活動を続けている。しかし、80年代の この一連のレコードで聴かれる彼女の歌声が最盛期だったののではないか、と 僕は思う。 98/9/27 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕