Jazz Now From France, etc, 横濱ジャズ・プロムナード '98 関内小ホール, 馬車道 (関内) 98/10/10, 12:00-21:30 毎年秋に開催されている横濱ジャズ・プロムナードも6年目。今年も、去年に続いて 欧州 free jazz / improv. の特集企画があった。去年は会場がランドマークホールで ハコが大きすぎた感もあったのだが、今年は関内小ホールとちょうどいい規模。 PAを使っていたが、生音もそこそこ生きていたし。 去年同様、各セット約1時間。セット組み替えのために、間に30分ほど休憩があった。 Dominique Pifarely (duo) - Francois Couturier (p) duo - 12:00- 最初は、フランスからのデュオ。即興というよりよく作曲された曲というのが、 演奏する様子を見ていると良く判った。プリペアドしたりフリーキーな演奏を したり、というのは全く無し。ジャズというよりクラシカルな感もある。 調性のある旋律が入る瞬間とシリアルな感の切り替えがポイントだろうか。 アルバム Dominique Pifarely / Francois Couturier, _Poros_ (ECM, ECM1647, '98, CD) とおりという感もあって、音の展開は意外性には欠けるか。自作の曲 では和音やトーンクラスターをほとんど用いないので点描感が強く、所々でみせる ユニゾンがアクセントなっている。アルバムにも収録されていた Mal Waldron, "Warm Canto" をライヴでもやったが、この和音を多用する曲は、他の曲とかなり 異なった感じに聴こえる。それがいいのか悪いのか…。 Benois Delbecq 4tet with Olivier Cadiot - Benois Delbecq (p), Guillaume Orti (sax), Steve Arguelles (ds), Joe Carver (b), Olivier Cadiot (text,vo) - 13:30- piano の Benois Delbecq と drums の Steve Arguelles は The Recyclers の 2/3ということもあり、The Recyclers の曲も演奏した。Noel Akchote ほどの事は 期待しないけど、bass と sax はもっとアクの強い演奏をして欲しかった。 逆に言えば、Delbecq と Arguelles の色が強く The Recyclers で来て欲しかった という思いも。Delbecq の prepared piano は thumb piano のようで、African prercussion 風に叩く Argueelles とあいまって、CDで聴くよりも中南部アフリカ っぽい。Olivier Cadiot の詩の朗読は、最初はとって付けたような感じの気も したけど、ループを使い、live electronics を噛ませた詩の朗読のようになった 時は、とても面白かった。ループされた自分の声に合わせて口パクしたり、 おどけたような表情をしたり。live electronics は 4tet の演奏でも用いられて いたが、悪くはないけれど、効果的というほどでは無かった。音いじりして映え そうな、弦管が地味だったせいかもしれないが。 Jean-Francois Pouvros (g) - 千葉 節子 (text,vo) duo - 15:00- 辛かった。Pouvros の残響深めの guitar ― 特に弓引きのうなりが印象的 ― の 作り出す音空間の中で、千葉 節子 が詩の朗読ともパフォーマンスをするというもの。 Pouvros は良かったのだが (どうせなら、Jac Berrocal と来て欲しかった。)、 千葉 節子 は、赤に黒のレースの下着姿という舞台衣装も含めて、特に読み上げる 詩の、ステロタイプな情念と色気が、僕にとっては興醒めだった。ヨーロッパで 受けているのは、オリエンタリズムなのではないかな。ううむ。ひょっとして、 「昔の」アンダーグラウンド・パフォーマンスって、実はこんな感じだったのかなぁ、 とか思ってしまったり。 Toy Sun - John Silverman (electric bass, fretless bass, Piccolo bass, guitar), DJ Nem (turntable, drum machine, synths, programming), Marc Chalosse (synth,digital sound processors, programming), Gregor Hilbe (drums, sampler, rebirth software) - 17:00- これも辛かった。sampler 類が多くクレジットされているが、実際のところは、 turntable 等を操る DJ もフューチャーする el g/b, key, ds のバンドで、 それぞれのメンバーも electronics で音を弄るというもの。The Glassy Knoll の ような Antilles レーベルが好んでリリースしそうな音ではあるのだが、なんせ、 生演奏のつまらないところと打ち込みのつまらないところを併せてしまったような 展開で…。セッティングに時間がかかって30分遅れて開演するし…。 Peter Broetzmann (reeds) - 河野 雅彦 (tmb) - 羽野 昌二 (ds) trio - 18:30- 一番盛り上がったセットだし、実際楽しめた。アンコールも2回やってくれた。 去年出演した Johannes Bauer が入った trio の代わりに 河野 が trombone に 入ったもので、まあ、予想通りの展開で、意外性は無いが。Broetzmann - 羽野 の ゴリゴリ力の入った演奏に 河野 がどう応じるか、という興味はあったのだが。 去年の Bauer はフリーキー音やスキャットでユーモラスにずらした、という感じ だったのだが、河野 はあまりタンギングを使わず音量多めのロングトーンで かわした、という感じ。Broetzmann も、いつもより静かな展開もあり、展開の 強弱のメリハリも楽しめた。 Trio Vladimir with Lauren Newton - Vladimir Rezitzky (as,fl,melodica,口琴,p), Vladimir Tarasov (ds), Vladimir Miller (p), Lauren Newton (vo) - 20:00- ロシアの前衛ジャズトリオに、Vienna Art Orchestra/Choir や Vocal Summit で 知られる女性ヴォイス・パフォーマー Lauren Newton をゲストに迎えたセッション。 The Ganelin Trio や Ilya Kabakov との共演で知られる ds の Tarasov の ドラミングは精緻な感じがと思いきや、意外にも、上半身を揺らしてのもの。 70年代フリーっぽい sax - piano - drums という編成もあってその構成での 演奏は個性的とは言い難いが、Rezitzky が、楽器をいろいろ持ち替えるだけでなく、 Miller の連弾を含め piano を弾いたり、ハンドクラップやスキャットをしたり、 という所がアクセントになっていたと思う。ゲストの Lauren Newton は、ひと しきり演奏を終えてから登場。trio が抑え気味の演奏をする中、ホーメイ風の 発声から始まり、次第にいるものフリースタイルなスキャットへ。小柄で細身の 体から、よくあれだけいろいろな声が出るな、と思った。それに、その時の振る 舞いが猫っぽいのもおかしかった。4人でソロを回したときに御茶目な所を見せたり。 最後、Rezitzky と Miller がロシア民謡風の旋律を交えながらガンガン連弾、 Tarasov も piano の内部を手持ちの小さなシンバルでバシバシ、Newton も piano の所によって、ぐっと会場を盛り上げて、大円団。アンコールは静か目に 締めたのも良かった。 20時頃に終わった去年に比べても、21時過ぎ終了と長帳場。途中、中だるみも あって、かなり消耗した一日だった。 去年の Jazz Now From Europa の場合、70s的な面子、構成で固めて、大ハズレも 無ければ、意外な見付物も無い、無難な企画になっていた。今年は、確かに、 聴いていて辛かったハズレもあったけれども、フェスティヴァル物で全てアタリを 求めるのも虫がいい話だと思う。楽しめた4つのセッションだけ見ても、去年より ずっと多様な音、構成だったし、それは良かったと思う。 横濱ジャズ・プロムナード全体で見ると、もっと Latin 〜 Brazil や Africa の 色を企画に加えてもいいのではないかなー、と思った。World jazz session の ような特集をやっていたら、そこも聴きに行ってみたい気もする。 98/10/10 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕