Kocani Orkestar _L'Orient Est Rouge_ (Cramworld, CRAW19, '97, CD) - 1)L'Orient Est Rouge 2)Doise 3)Ibraim Odja 4)Burkan Cocek 5)Ederlezi Avela 6)Sevdah Hikmet 7)Sunet Oro 8)Dervis Oro 9)Ciganka 10)Maxutu 11)Edinaesetorca 12)Djelem, Djelem - Produced by Vincent Kenis & Stephane Karo. Recorded in the Macedonian Radio Television Studios, Skopje. - Naat Veliov (tp), Orhan Veliov (tp), Hikmet Veliov (bass tuba), Ismail Saliev (sax,cl), Vinko Stefanov (accordion), Mendu Saliev (tuba), Dalkran Asmetov (tuba), Redzaim Juseinov (drum), Ismail Isamailov (hand-drum), Ali Memedeov (hand-drum), Redjep Aliev (zurla) Emir Kusturica の映画 _Underground_ で一躍有名になった、バルカン、特に セルビアからマケドニアにかけて多いと言われる、ジプシー・ブラスバンド。 Crammed Discs 傘下の world music のレーベル Cramworld からCDをリリース した Kocani Orkestar も、そんなバルカン・ブラスバンドの1つだ。(ちなみに、 _Underground_ の映画音楽を手掛けたのは、Goran Bregovic。Kocani Orkestar は _Underground_ とは関係ない。) マケドニアのダンスチューンといえば、"〜 Oro" という曲名が付いていること が多い7/8 (もしくは9/8, 11/8) 拍子の曲。このCDでも、その変拍子が、brass や accordion、そしてビービーいう zurla (traditional oboe) の節回しも併せて バルカン風の雰囲気を出している。ちなみに、このリズムはトルコ由来のようで、 トルコ伝統音楽では Aksak と呼ぶらしい。こういうリズムの曲では、タテノリ、 ヨコノリ、というより、ワルツなどにも連なる回転系のノリだ。それに、ボボボ ボッとタンギングを多用してぐいぐい引っ張るような音を響かせる三本の tuba の 繰り出すベース・ラインと、カッカッカンカンカンッという感じの硬質な音がする hand-drum (Darabuka) の高速でミニマルなリズムが生み出す、グルーブ感も強烈な ものだ。あまり回転系でノリのよい音楽を聴く機会が少ないせいか、たまにこういう CDを聴くと新鮮だ。 けど、印象的なのは、オープニングの表題曲「東方紅 "L'Orient Est Rouge"」。 もちろん、中華人民共和国の国歌。リズム感が他の曲と違いタテノリで、平板な 感もあるのだが。ブラスの切り込みも鋭くて、そのタテノリは戦闘的な感じも あって、それがいい。バルカン・ブラスバンドとしては異色かもしれないが、 その怪しさも含めて気に入っている。意外と、Pigbag のような脱パンク期の 硬質なビートを持った white funk バンドが出していた音に似ているように思う。 さらに Carl Craig の Innerzone Orchestra にもビートが繋がるような気がする。 Crammed Dics 傘下のレーベルから出た音源の techno 〜 break beats 系の remix を傘下の SSR からリリースする、ということがよく行われているわけだが、 この "L'Orient Est Rouge" の remix というのも、ぜひやってみて欲しい。 techno と brass band の関係といえば、 The Williams Fairey Brass Band _Acid Brass_ (Blast First, BFFP150CD, '97, CD) - 1)Can U Dance? (DJ Fast Eddie) 2)Jibaro (Electra) 3)Voodoo Ray (A Guy Called Gerald) 4)Pacific 202 (808 State) 5)Strings Of Life (Rhythim Is Rhythim) 6)The Groove That Won't Stop (Kevin Saunderson) 7)Let's Get Brutal (Nitro Deluxe) 8)Cubik (808 State) 9)Day In The Life / Can U Party? (medley) (Black Riot / Royal House) 10)What Time Is Love? (KLF) - Produced by Jeremy Deller. Recorded at the BBC Sound Studio, Oxford Road, Manchester. KLF と縁深くライヴでも共演しているという、England の brass band による、 acid house の anthem 集。といっても、この企画のために作られたわけではなく、 1937年に創設された Stockport を拠点に活動する、国内のコンテストで何回も 優勝したことのある、由緒ある brass band だ。 Rhythim And Rhythim (a.k.a. Derrick May) の名曲 _Strings Of Life_ をはじめ、 KLF, "What Time Is Love?_ や 808 State, _Pacific 202_ といった有名な曲が並ぶ。 ただ、大人数の brass band のせいか、いささか大仰なアレンジになってしまい、 音の鋭さが足りなく感じられる。小回りの利かない音だ。良くもなく悪くもない出来。 どちらも brass band とはいえ、一概に比較はできないが、むしろ Kocani Orkestar のような小編成のバンドに演奏させたほうが面白そうな気がする。 ちなみに、_The Wire_ 誌 Oct 1998 号 の "Invisible Jukebox" (ミュージシャンに 曲名を伏せて曲を聴かせてコメントさせるコーナー) に Derrick May が登場し、 The Williams Fairey Brass Band の演奏する "Strings Of Life" も取り上げられ ている。このカヴァーの存在を Derrick May は知らなかったようで、このような カヴァーをされたことを喜ぶ一方、「もっと良かったらなぁ。」と言っている。 98/10/17 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕