Cadallaca _Introducing ..._ (K, KLP86, '98, LP/CD) - 1)Your One Wish 2)June -K- July 3)You're My Only One 4)Pocket Games 5)Night Vandals 6)Two Beers Later 7)O Chenilla 8)Cadallaca Theme 9)Firetrap 10)Winter Storm '98 - Produced by Calvin Johnson. - Corin Tucker (Kissy) (vo,g), Sarah Dougher (Dusty) (vo,organ), sts (Junior) (ds) ex-Heavens To Betsy で、現在 Sleater-Kinney というバンドでも活動している Corin Tucker の新プロジェクト。他のメンバーも The Crabs の Sarah Dougher、 Dougher も参加している Lookers の sts 、と、いわゆる Olympia シーン界隈 から出てきた女性ミュージシャンだ。(正確には、拠点は Portland だが。) 制作は、もちろん、K の主催者 Calvin。 ちなみに、Sleater-Kinney は EU で Matador と契約し (US では Kill Rock Stars)、 過去の3枚のアルバムを Matador からリリースし直している。さらに _Little Babies_ (Matador, OLE326-7, '98, 7") という水色のビニールの7"を最近リリースした。 _Dig Me Out_, (Kill Rock Star, KRS279, '97, CD) からのシングルカットにあたる わけだが、Sleater Kinney の活動も続けるのかは、不明である。 Corin Tucker に関して見れば、Riot Grrrl らしい punk 流儀のだった Heavens To Beatsy から、Go-Go's を思わす pop さもある Sleater-Kinney へという変化 からすると、その pop の試みに集中したのが、この Cadallaca だろう。なんせ、 ライナーノーツによれば、彼女らのヒロインであるという Jackie deShannon, Dusty Springfield, Marva Whitney といった60sの pops (Whitney は R & B) の 女性歌手のように歌うという、というコンセプトなのだ。3人のメンバーには、 それぞれ Kissy, Dusty, Junior という役割が割り当てられているそうだが。 だからといって、そのライナーノーツを真に受ける必要は無いと思う。むしろ、 60s girl pops らしさを楽しむ聴き手に対する皮肉が入っているように思う。 Sleater-Kinney 以上の pop さを一番生んでいるのは、Dougher の Farfisa organ のように思う。g は意外と folk rock ぽい。その中で、Corin Tucker の歌声は、 相変わらずで、金切り声を寸前で抑えたような辛辣な感じ。この歌声だけでも聴くに 値するように思うが、歌声と演奏の取り合わせも良いように思う。歌詞にしても 歌唱にしても "Night Vandals" が最も pop しているだろうか。この曲にしても、 優しく歌い込むなか、最後の方で Heaven To Betsy 時代を思い出すような叫び声が ぱっと入ってくる。このアルバムで一番の瞬間はここだろう。 Sleater-Kinney が好きな人なら、もちろん気に入ると思う。それに、_Lilith Fair_ 以降注目を浴びている US の女性シンガーソングライターが好きな人にも聴いて 欲しい音だ。 Cadallaca の 60s girl pop を演奏するコンセプトを真に受ける必要が無いと思う、 むしろ皮肉ではないか、と先に述べたが。僕は、この Cadallaca を聴いていて、 _Artforum_ 誌 Feb. 1998 号 の Greil Marcus の音楽コラム "Real Life Rock Top Ten" に2位に Sleater-Kinney が挙げられていたのを思い出してしまうのだ。 そこに添えられたコメントを読むと、Cadallaca は Girlism に対する一種の リアクションに思えてくる。 Sleater-Kinney: "Big Big Lights" on _Free to Fight #1_ (Candy-Ass, P.O. Box 42383, Portland, OR 97242). 「ガールと闘うガール」についての12頁の ブックレットが付いた7"シングル。手引き、意見、手紙といったものからなり、 その中には Spice Girls の "Girl Power" に関するものも含まれている。 「ガーリズム (Girlism) なんていうは60年代への退行だ。望むことは何でも できる自由が女性にあるだなんて考えている限り、私たちがいる男性中心的な システムに対して反逆を始める理由は無いからだ。」 Corin Tucker の基準に よるものとはいえ、Sleater-Kinney の貢献はある種の極端な歌声を特徴と している。あまりに消耗しており、あまりに身体が危機に迫っているために、 壊れ始めてしまうかのように感じる歌声だ。B面のハイライトはこうだ。 「毎日」― と、圧倒的な声の短い繰り返しでこう始まり ―「毎秒、女性は愚か、 ブス、きちがい、売女と言われている。」 ―、そしてこう終わる。― 「十五秒毎に、女性は反撃する。」 (訳:嶋田) ― Greil Marcus (1998) 98/10/21 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕