1998年に発売された中から選んだ10枚。 第一位: Waldemar Bastos, _Pretaluz_ (Luaka Bop, 9 46481-2, '98, CD). Africa 南西部に位置する Angola 出身のシンガーソングライターによる Africa と Brazil のポピュラー音楽の出会いの試み。随所に聴かれる、中〜南アフリカに 特徴的な軽快な rhythm guitar の響きと、郷愁に満ちたポルトガル語の歌声に、 耳を傾けよう。 第二位: Rhythm & Sound with Tikiman, _Showcase_ (Burial Mix, BMD-1, '98, CD). Horace Andy を思わせる歌声がフィーチャーされた途端、minimal techno は digi roots reggae の様相を帯びた。それは、このユニットの一人 Maurizio も DJ をした、Hard Wax presents Session Elements meets Elevations (Club Lust, 98/8/29) の minimal techno のプレイの前が reggae であったことにも符合する。 8/29 の Club Lust で後半ひたすらプレイしつづけた音を概覧するのであれば、 Various Artists, _... Compiled_ (Chain Reaction, CRD-06, '98, CD) が うってつけかもしれない。Chain Reaction レーベルのカッティング・エンジニア による Pole, _CD1_, (KiffSM, KIFF012CD, '98, CD) の音もその延長にあるかも しれないが、むしろ、Chain Reaction を離れての Porter Ricks, _Porter Ricks_ (Mille Plateaux, MPCD42, '97, CD) の金属音っぽい高音部に、新たな展開を聴く ような気もする。 第三位: Bratko Bibic, Lars Hollmer, Maria Kalaniemi, Guy Klucevsek, Otto Lechner, _Accordion Tribe_ (Intuition, INT3220-2, '98, CD). アコーディオン奏者5人の演奏によるゆったりめのリズムと旋律を持つ曲が楽しめる。 たまにひょうきんな表情をみせたり、無調/リズム不定の即興演奏になるのも、 良いアクセントなのだが、Maria Kalaniemi の歌入りの solo の trad の曲 "Mita Sina Laitoit" など冷たく凛とした感じが最もこのCDを引き締めている かもしれない。 第四位: Cadallaca, _Introducing ..._ (K, KLP86, '98, LP/CD). Riot Grrrl 上がりの Corin Tucker (Sleater-Kinney) らが 60sポップス風の 演奏をしてみせる。その皮肉が矛盾に達しているかは、微妙だが。少なくとも、 最もポップな "Night Vandals" で優しく歌い込むなか、最後の方で Heavens To Betsy 時代を思い出すような Corin の叫び声がぱっと入ってくる瞬間は、 ガーリズムの脱構築を保証しているように思う。 第五位: Herbert with Dani Siciliano, _Around The House_ (Phonography, GRAPHCD01, '98, CD). ぐいぐい低く引くベースラインと女性歌手 Siciliano の歌声の絡みが素敵な一枚。 一つ一つの音がとてもソフトな感触で、これが deep house と分類される理由かも しれないが、house であるかどうかより、この淡々とした音世界が重要に思える。 第六位: Uilab, _Fires_ (Duophonic Super 45s, DS45-CD19, '98, CD). 洗練に過ぎた Stereolab, _Dots And Loops_ (Duophonic UHF Disks, D-UHF-CD17, '97, CD) はロック/イージーリスニング脱構築の矛盾を生み出す力に欠けていた ように思うが、NYの post-rock バンド Ui とのコラボレーションであるこの作品の いくらかの粗さは、その力を取り戻していると思う。Brian Eno, "St Elmo's Fire" のカヴァーが秀逸。 第七位: Loren MazzaCane Conners, _A Possible Dawn_ (hatNoir, 801, '97, CD). ひしゃげたエレキ・ギターの音のゆっくりとした間合いが緊張感に微妙なブルース 感を加えている。緩いブルースと激しい即興が隣り合うその緊張感が気持ち良い。 第八位: Vainio / Vaisanen / Vega, _Endless_ (Blast First, BFFP147CD, '98, CD). Finland から出てきた electro-acoustic な techno ユニット Pan Sonic と、 NY punk な Suicide の Alan Vaga という意外な顔合わせではあるが、情念的な Vega の歌声とほとんど無機的な Pan Sonic の電子音響が、絶妙の緊張感を 生み出している。 第九位: Rachid Taha, _Diwan_ (Barclay, 539953-2, '98, CD). アルジェリアでは rai のようなポップは不道徳としてイスラム原理主義者のテロの 対象となっており、大物ミュージシャン、プロデューサが暗殺の対象とされ、 多くは亡命同然の状態でフランスで活動している。今まで rock 的 techno 的な 音楽をやってきた在仏アラブ人二世の Rachid Taha が初めてアラブのポップを カヴァーしたこのアルバムの最後で "Aiya Aiya" と歌う。「歌の主人公はこう言う。 僕は何も見なかった、僕は何もしなかった、僕は何も盗まなかった、僕は誰も 殺さなかった、と。アルジェリアとそこでの狂信的な虐殺へ、明らかに言及した ものである。歌の主人公はひょっとしたら様々な目的を持つ凶悪犯罪の無名の 犠牲者を見たことがあるのかもしれない。その死はめったにメディアには上ら ないのだけれども。」 第十位: Kocani Orkestar, _L'Orient Est Rouge_ (Cramworld, CRAW19, '97, CD). 映画 _Underground_ で一躍有名になった、バルカンのブラスバンドのCD。 トルコ由来の変拍子の回るようなノリも、ボボボボッとタンギングを多用して ぐいぐい引っ張るような音を響かせる三本の tuba の繰り出すベース・ラインと、 カッカッカンカンカンッという感じの硬質な音がする hand-drum (Darabuka) の 高速でミニマルなリズムによって、グルーブ感も強烈なものになっている。 次点: Autechre, _lp5_ (Warp, WARPCD66, '98, CD). Various Artists, _We Are Reasonable People_ (Warp, WAP100CD, '98, CD) の 一曲目 "Freeman Hardy & Willis Acid" での Squarepusher と Aphex Twin の 共演もぱっとせず、「前衛」techno 〜 breakbeats も失速気味の中、今まで目立つ ことの無かった Autechre の新譜は、_Artificial Intelligence_ 路線を地道に 進めた新奇性を衒った感じが無い、淡々とした魅力を湛えたものになっている。 一方、drum'n'bass といえるような要素を殆ど無くし生演奏のニュアンスを多くした Squarepusher, _Music Is Rotted One Note_ (Warp, WARPCD57, '98, CD) は、 ここまで来たか、と感慨深いものがあったが。 番外特選: Nicolas Frize, _Le Chant de la Chair_ (Bunkamura シアターコクーン, 98/8/4). 7月末の世田谷美術館でのワークショップまで含めて、1週間かけての大掛かりな 大道芸だった。ワークショップに参加して、ボディ・パーカッションの可能性を 知ったということより、舞台を消し去って参加者全員を包み込む見世物を作り出 したということが、忘れがたい体験になった。 1999/1/1 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕