Frederic Rzewski 神奈川県立音楽堂 (桜木町) 1999/5/17, 18:00-20:30 - Frederic Rzewski (piano) 1960年代から現代音楽のピアノ演奏家として活躍する Frederic Rzewski の コンサート。といっても、僕が知ったのは、Anthony Braxton や Steve Lacy と いった free jazz のミュージシャンを介してであり、むしろ、政治的な ポピュラー音楽を主題とする折衷的な形式を特徴とする自演する作曲家と しての印象が強い。今回のコンサートの演目も自作自演だ。 1970年前後の Chile の Nueva Cancion の中から出てきて、1970年代に Chile の Pinochet 軍政に抵抗する革命歌として知られた曲である Sergio Ortega and Quilapayn の "El Pueblo Unido Jamas Sera Vencido!" に基づいた36の変奏曲 "The People United Will Never Be Defeated!" (1975) の生演奏を楽しみに 聴きに行った。冒頭で力強く強く弾かれるそのロマンチックですらある旋律を 聴いただけで、思わずぐっときてしまうのだけれど。いつのまにか十二音音階 音楽以降の「現代音楽」のような抽象的な展開になっているのだけど、それも まるで革命歌のように思えたり。その中から旋律がふっと浮かび上がって消えて いったり。というのが、とてもかっこいい曲だと思うが。ただ、自演のCD (hatArt, CD6066, 1990, CD) で何度も聴いてきた曲だし、その演奏と比べても、 PAのせいなのかミスタッチしたのか音がぐしゃっと潰れてしまうところが あったりと、必ずしも良かったとは思わないが。ただ、好きな曲だけに、 蓋をバンと閉めるところや口笛を吹くところ ― 多くは無いけれど ― を含めて、 弾いているところを見られたのは、良かったかも。CD で復習すると、ここでは Rzewski はこう弾いていたな、と思わず思ったり。 アンコールで弾いた "Down By The River" (_North American Ballads_ (1979) の 4曲のうちの1曲。自演によるCD (hatArt, CD6089, 1991, CD) もある。) にしても、 Vietnam 戦争時の反戦歌に基づいた曲で、"The People United Will Never Be Defeated!" と同様の魅力のある曲なのだが、アンコールの演奏の前に、 客席に向かって「これから "Down By The River" を弾きます。これは、ベトナム 戦争のときの反戦歌として知られた歌で、当時の若者 ― 私もその時は若者 だったのですが ― には特別の意味があった歌でした。」みたいなことを言った のですが、そのはっきりした口調から、左翼っぽい頑固さもあるけど人の良さ そうな雰囲気が感じられたのが、とても印象的だった。それは、サンダル履きの 質素目の服装での演奏というところからも感じられたのだが。そういう意味では、 クラッシック向けのコンサートホールのような会場ではなく、もっとこぢんまり したハコでリラックスして聴いた方が楽しめたのではないか、という気もした。 というのは、プログラムの1曲目、今回世界初演された "The Road, Part 5" (1998) がいまいちに感じた所があったからだ。ピアノ本体をバンバンパタパタ叩いたり、 裏をガリガリひっかいたり、という技法 (今では、もはや外れた演奏ではない わけだが。) のも、小さなもっとユーモラスに楽しめたのではないかという 気もした。 1999/4/18 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕