Koch-Schuetz-Studer & Musicos Cubanos
_Fidel_
(Intakt, CD056, 1999, CD)
- Produced by Koch-Schuetz-Studer.
Recorded in Havana, Cuba, 1997/3/31-4/5 and in Lucerne, Switzerland,
1997/11/25.  Mixed by Jean-Claude Pache, assisted by Esther Heeb and
Koch-Schuetz-Studer at Soundville Recording Studios, Lucerne, Switzerland,
1998/1/18-21.  Edited by Koch-Schuetz-Studer, spring 1998.
- Hans Koch (clarinets,saxophones,electronics,samples,tapes,sequencer),
Martin Schuetz (electric 5-string cello,acoustic cello,electronics,samples),
Fredy Studer (drums,percussion); Musicos Cubanos.

Lucerne, Swiss を拠点に活動する free jazz / improv. trio、Koch-Schuetz-Studer
の新作は、Cuba のミュージシャンたち18名とのコラボレーション。といっても、
生演奏的な共演というよりも、もっとサンプリング的なもの。

Koch-Schuetz-Studer は、free jazz / improv. のシーンでは典型的な bass-less
cello trio の構成をその核に持っており、その半作曲的なリズムやメロディの扱いも
それに基づくものが多い。この trio が強烈なのは live electronics の扱い方。
多くの free jazz / improve. バンドが、チャカポコいう打ち込みの導入や、1970年
代以来の残響の延長のような音の変形に終始しているのに対し、Koch-Schuetz-Studer
の、sampling / editing のセンスはもとより、ズーンと響くような低音 ― techno
〜 breakbeats ではこういう低音の役割も極めて大きい ― の扱いが、際立っている。
決して踊れるようなビートを構築しているわけではないのだが。

Afro Cuban のポリリズミックなリズムの断片が、DJ的なセンスも持って再編集され、
bass-less trio ならではの音域的に自由度の高い音編成の中に散りばめられている。
単にリズムの断片が背景として添えられているという感じではなく、3人の演奏が
それに合わせるというわけでもなく、勝手にやっているような感じも気持ち良い。
展開がとても緊張感の高いものになっている。お勧めしたい。

この trio は、まだ drums 奏者が Marco Kaeppeli だった1980年代後半に、Hans Koch
/ Martin Schuetz / Marco Kaeppeli, _Acceleration_ (ECM, ECM1357, 1988, CD)
という録音を残している。reeds, cello, drums という free improv. trio というと、
ほぼ同時に、Miniature (Joey Baron (ds), Tim Berne (reeds), Hank Roberts
(cello)) が出て来ており、その初録音 _Miniature_ (JMT, 834 423-2, 1988, CD) の
live electronics 使いに比べ、生音だけの地味な trio という印象を拭えなかった。
その後、ちゃんと追いかけていなかったのだが、もはやここまで化けているとは
思わなかった。

というわけで、今まで残した録音をフォローしてみた。

Koch-Schuetz-Studer-Demierre-Marti-Wittwer
_Chochshut_
(Intakt, CD031, 1994, CD)
- Produced by Intakt Records.  Recorded in 1991/12.
- Hans Koch (tenor & sopran saxophone,bass clarinet),
Martin Schuetz (electric 5-string cello), Fredy Studer (drums,percussion),
Jacques Demierre (piano), Andreas Marti (trombone), Stephen Wittwer (guitars).

1990年代に drums が Fredy Studer になっての初録音は、3人のゲスト入り。
6人になっても bass-less の編成で音の自由度は高い。やはり、まだ live
electronics は用いてはいないので、1990年代に多くある、作曲指向の強い
free jazz / improv. バンドの一つ、という程度かもしれない。

Koch-Schuetz-Studer
_Hardcore Chambermusic_
(Intakt, CD042, 1995, CD)
- Produced by Koch-Schuetz-Studer.  Recorded by Martin Bisi in Brooklyn, NY,
1994/10/27-30.  Mixed by Martin Bisi, assisted by Koch-Schuetz-Studer
in Brooklyn, NY, 1995/3/7-10,12-14.  Edited by Daniel Zimmermann and
Koch-Schuetz-Studer, 1995/3/25-27.
- Hans Koch (clarinets,saxophones,sampling,sequencer programming),
Martin Schuetz (electronic 5-string cello,acoustic cello),
Fredy Studer (drums,percussion).

この、NY に出向いての録音は、ミキサーに Bill Laswell との一連の仕事で知られる
Martin Bisi を迎えている。ゲストは無しだが、多量のサンプリングが用いられて
おり、ズーンという低音を含めて、現在の trio のスタイルが確立されたのが、
この作品であることがわかる。それ以降、彼らの音楽のコンセプトを "Hardcore
Chambermusic" と呼んでいるようである。

展開も単調さが排されていて、緊張感は高い。この作品で、_Fidel_ の原点を聴いて
みるのもいいかもしれない。

Koch-Schuetz-Studer & El Nil Troop
_Heavy Cairo Traffic_
(Intuition, INT3175-2, 1997, CD)
- Produced by Koch-Schuetz-Studer.  Recorded in Cairo, Egypt, 1995/6/14-17.
Mixed by Jean-Claude Pache, assisted by Koch-Schuetz-Studer in Lucerne,
Switzerland, 1996/2/26-28.  Edited by Daniel Zimmermann and
Koch-Schuetz-Studer, 1996/5/29-31.
- Hans Koch (clarinets,saxophones,sampling,tapes,sequencer),
Martin Schuetz (electric 5-string cello,electronics,sampling),
Fredy Studer (drums,percussion); El Nil Troop.

なぜか、Intakt ではなく Intuition からの前作は、Egypt のバンドとの共演盤。
ライナーノーツに制作の手順も書かれており、まず、Cairo で録音を行い、Swiss に
戻って、さらに新たな要素を録音してミックスしているとのこと。おそらく、新作
_Fidel_ もこのような形で制作されているのだと思われる。

Arab 風の楽器の音はいいのだけれど、どうもリズムの処理が甘いというか単調で、
ぶっ壊れたポリリズムのような _Fidel_ に比べて、いまいち、面白味に欠けるかも
しれない。

1999/5/23
嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕