1920年代の Avant-Garde 運動の中で作られた音楽のCDが続けて2枚出たので、 まとめて紹介したい。 Steffen Schleiermacher _Soviet Avant-Garde 2_ (hat[now]ART, 115, 1999, CD) - Music composed by Arthur Lurie, Alexander Mossolov, Leonid Polovinkin, Nikolai Roslavetz. - Recorded 1997/11 and 1998/4. - Steffen Schleiermacher (piano) 1910〜30年代に Russia 〜 Soviet の作曲家によって作曲された Classical な ピアノ独奏曲の演奏が収録されている。5年前に同レーベルから出た Steffen Schleiermacher, _Soviet Avant-Garde_ (hatART, CD6157, 1994, CD) の続編で、 演奏者も同じ。作曲者も、Lurie、Mossolov、Roslavetz と4人中3人が共通する。 新ウィーン派の12音音楽と共通するような抽象的な曲を書く Lurie、Roslavets と 言われるが、Lurie の初期の作品 _Two Mazurkas op.7_ (1912) などは、まだ 印象主義的とでもいうかそんな感じもある。Mossolov は、そこから旋律やリズムを 生かした感じになるのだが、CDでは、それほど派手な曲が無い。全体として静か目で、 第一編に比べていささか地味かもしれない。 初耳の Polovinkin は子供向けの劇場音楽とかを作っていた作曲家らしいのだが、 かなり通俗的な旋律、リズムを生かした曲だ。微妙に屈折してはいるのだが、 Avant-Garde と言うほど強烈ではないかもしれない。 このCDのライナーノーツが、曲の説明ではなく、取り上げられた作曲家たちの 悲惨な末路について書かれているというのも、ちょっと興味深い。実際のところ あまりよく知られていない音楽家が多いのだが。Lurie が亡命先のアメリカで 音楽界から忘れ去られて死んだ、というのはまだ良くて、Mossolov は追放先の トルクメンから1960年代にモスクワに戻るも、文字どおり「アル中の上、路上で」 死んだそう。 さて、5年前も Steffen Schleiermacher は、_Soviet Avant-Garde_ とほぼ同時に George Antheil をはじめ1920年代のアメリカの前衛音楽家を取り上げたCD、 Steffen Schleiermacher, _The Bad Boys!_ (hatART, CD6144, 1994, CD) を リリースしているのだが、今回も、もう一枚、リリースしている。 Steffen Schleiermacher _Music At The Bauhaus_ (MDG, 613 0878-2, 1999, CD) - Music Composed bu Stefan Wolpe, Josef Matthias Hauser, Wladimir Vogel, George Antheil, Hans Heinz Steckenschmidt. - Recorded 1998/11/21-23. - Steffen Schleiermacher (piano) 1920年代の Avant-Garde な造形運動への影響だけでなく、それ以降の近代的な 造形運動への影響も大きいことで有名なドイツの造形学校 Bauhaus だが、そこでの 音楽については、あまり知られてもいない。そんな、Bauhaus での曲を集めたCDだ。 1910〜20年代に作曲された曲ばかりである。 Wolpe というとアメリカへ行ってからの活動で知られるように思うのだが、ここに 収録された曲は、Bauhaus の学生時代に創られた曲だ。 Hauser はウィーン出身で、音楽ジャーナリスト的な活動もしていたようで、世代も 他の作曲家より一回り上、Itten と親交があったよう。収録された中では、最も 2音音楽的な抽象的な感じが強い曲を書いていると思う。 続く Wladimir Vogel は、それほど Bauhaus と縁が深くなく、一度、Bauhaus Week で訪れて作曲したもののよう。表現主義的とあるが、聴いた限りはいささか地味 のように思う。 George Antheil は _Ballet Mechanique_ (1924) で有名なアメリカ出身の作曲家だが、 Avant-Garde 期は欧州を活動の拠点にしており、2度ほど訪れているらしい。自伝の 中で Bauhaus で演奏したと触れられた曲を取り上げているようだが。Antheil らしい リズミカルで力強い感じの曲だ。 最後の Hans Heinz Steckenschmidt は Kurt Schmidt, _Mechanical Ballet_ (1923) の音楽を手掛けていた作曲家だとのことだが、ここに収録されているのは、その曲 ではなくて、彼の現在スコアが残っているらしい唯一の曲が収録されている。 この Steckenschmidt のエピソードでも判るようにスコアが残っている曲が Antheil ような作曲家ですら多くなく、曲そのものを楽しむというより、あまり 記録が残っていない中で Bauhaus でどのような音楽が作られていたのか想像する 手がかりとし聴き、自分で想像して楽しむという面も強いかもしれない。そんな CDである。(これは、_Soviet Avant-Garde 2_ にも共通するかもしれないが。) このCDでは、ジャケットも Johannes Itten の絵や Bauhaus フォントが用いら れている。 Steffen Schleiermacher は _The Bad Boys!_ (hatART, CD6144, 1994, CD)、 _Soviet Avant-Garde_, (hatART, CD6157, 1994, CD)、そしてここで紹介した2枚、と 1920年代の前衛芸術運動の中での音楽を調査し再演してきているピアニストである。 全てピアノ独奏曲だというのが少々惜しまれるが、彼は、Ensemble Avant-Garde と いうアンサンブルを率いての活動も行っているという。ぜひ、そのアンサンブルで 再現できる 1920年代当時の Avant-Garde 曲集の録音とかもリリースして欲しい ものである。 (ちなみに、_The Bad Boys!_ と _Soviet Avant-Garde_ についてのレヴューが、 http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/CdD/98010201 にある。) 1999/6/6 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕