今年で活動20年目となる Holland の代表的な post-punk バンド、The Ex が 変則的なプロジェクトの新作を2枚続けてリリースしたので、紹介したい。 Tortoise + The Ex _In The Fishtank_ (Konkurrent / In The Fishtank, 5, 1999, CD) - 1)The Lawn Of The Limp 2)Pooh Song 3)Central Heating 4)Pleasure As Usual 5)Did You Comb? 6)Huge Hidden Spaces Chicago, IL の post-rock バンド Tortoise が Holland を訪れた際に、The Ex を ゲストに迎えて録音された作品。全部で30分程度のミニアルバムだ。 punk 的な濁ったギターやベースの音や一本調子の歌唱など The Ex の色の方が強い ように思う。それは、緻密にスタジオで作り上げる音ではなく、短い時間の録音に よる粗いスタジオセッションという、録音にも依るように思う。そこに、澄ました ような Tortoise のキーボードの音が入ると、はっとさせられる所もあるのだが。 それが、矛盾に至るほどの強さが欠けるのが、ちょっと惜しいところ。The Ex の 演奏を John McIntire がスタジオ弄くりまくる、とか、した方が、面白い仕上がり になったのではないか、と思わせるところもある。そういう意味では、Tortoise の 色が強い作品の方が面白い。淡々とした Tortoise 風の音に、G. W. Sok の punk 風 詠唱が乗る "Pleasure As Usual" や、もっと音響的な "Huge Hidden Spaces" の 方が興味深いかもしれない。楽しめる、という域まであと一歩か。 _In The Fishtank_ は、Holland の独立系レーベル / 配給会社 Konkurrent が 始めたミニアルバムのシリーズ。Konkurrent と縁の深いバンドがツアーでHolland へ 来た際に、2日間で20〜30分のセッションを24トラックに録音してもらうというもの。 いつものレパートリーだけでなく、それから外れた曲や即興演奏など、録音する曲は バンドに任されているという。まだ始まったばかりのシリーズで、Tortoise + The Ex が5番目のリリース。ちなみに、第一弾は NoMeansNo。第三弾は UK digital reggae のバンド Tassili Players なので、rock に限ったものではないようだ。 Roof _"Trace"_ (Red Note, 7, 1999, CD) - 1)Trace 2)Halt 3)A Plinth 4)Buda Buda 5)Spit Pedro 6)Janna Li(v)e 7)Magnifique 8)Glory Too 9)Blind Spots - 1,5,7) Recorded live at Bimhuis, Amsterdam on 1997/6/21. 2,3,4,6,8,9) Recorded live at Lagerhaus, Bremen on 1997/6/25. - Tom Cora (cello), Michael Vatcher (drums), Phil Minton (vocals), Luc Ex (acoustic bass). _The Untracable Cigar_ (Red Note, 1996) という作品をかつてリリースしていた The Ex の Luc の free improv. プロジェクト Roof の新作。といっても、今は 実質的に活動しておらず、1997年のライヴ音源のCD化。Tom Cora を追悼しての リリースということだ。 明確なリズムがある時も多い free improv. の色が濃い avant-rock なのだが、 Cora の緊張感を感じさせるチェロの響きが、やはり最も強烈な印象を残す。 The Ex + Tom Cora の二作 (_Scrabbling At The Lock_ (Ex, EX051D, 1991, CD)、 _And The Weathermen Shrug Their Shoulders_ (Ex, EX057D, 1993, CD)) に 感触は近く、それらが好きだった人なら、楽しめるかもしれないが。歌唱が ほとんど無い (Minton は歌唱よりヴォイスパフォーマンスだ。) こともあってか、 いささか緊張感が薄まっているようにも思う。それでも充分な仕上がりだが。 さて、このようなサイド・プロジェクトに忙しい The Ex だが、The Ex としての アルバムが去年出ている。 The Ex _Starters Alternators_ (Ex, EX074D, 1998, CD) - 1)Frenzy 2)Let's Panic Later 3)I.O.U. (Nought) 4)Art Of Losing 5)It's Sin 6)Two Struck By The Moon 7)Mother 8)Bee Coz 9)Lump Sum Insomnia 10)Wildebeest 11)Nem Ugy Van Most - Recorded by Steve Albini on 1998/6/14-20 at Electrical Audio in Chicago. - Katrin (drums,vocal), Terrie (guitar), Andy (guitar), Lue (bass), G. W. Sok (voice). ゲスト無しでの前作 _Mudbird Shivers_ (Ex, EX060CD, 1996, CD) から3年ぶりに なる、Chicago, IL で録音された新作だが、音の傾向は前作とはあまり変わらない。 初期の Wire や The Fall に繋がるようなギクシャクした post-punk な rock だ。 相変わらずの出来だ。エンディングの Muzsikas のカバー "Nem Ugy Van Most" に 聴かれるような東欧風の旋律も、生きている。 Steve Albini (ex-Big Black, Shellac) を制作に迎えたせいか、ガチャガチャした 感じが減って、音の輪郭が太くはっきりしたように思う。せっかく Chicago に行った のであれば、Mekons とセッションしたりした方が、面白い展開になったのでは ないかと思うのだが…。ちなみに、同時期に録音された、Mekons, _Me_ (Quartertick, QS53CD, 1998, CD) には、The Ex の Terrie が参加している。 1999/6/20 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕