Enver Izmailov Trio _Minaret_ (Boheme, CDBMR902037, 1999, CD) - 1)Bulgarian Dance 2)Mekhmonhona 3)Boina 4)Near Spring 5)Sevan 6)Balkan 7)Yalta - Enver Izmailov (g), Narket Ramazanov (sax,cl,fl), Rustem Bari (perc) Crimia 出身の two tapping を得意とする guitar 奏者 Enver Izmailov のトリオ による新作。jazz / improv. の背景を持つミュージシャンで、今まで、Germany の Tutu レーベル (Enja 傘下) などに録音を残しており、この Russia のレーベル からは、ソロの Enver Izmailov, _The Eastern Legend_ (Boheme, CDBMR809017, 1998, CD) に続いて2作目。今までソロもしくはデュオでの演奏が中心で、バンド 編成では初録音だということである。といっても、僕はこの作品で初めて演奏を 聴いたのだが。 Izmailov は民族的には Crimia Tatar (Turk 系) なのだが、生まれは中央アジアの Uzbekistan で、後に Crimia (Ukraina の南部) に戻ってきたという。(ちなみに、 Crimia Tatar は Stalin 時代に中央アジアへ強制移住させられた民族である。) というわけで、ライナーノーツによれば、Tatar だけではなく中央アジアの音楽的な 要素も取り入れているという。特にその界隈の音楽に詳しいわけではないが、 僕の知る限りでは Turk 〜 Balkan の音楽から影響が見え隠れするような気がする。 オープニングは "Bulgarian Dance" という変拍子の曲で、Turk の Aksak とか Balkan の Oro のようなダンス曲だし。"Balkan" と題した曲もある。 このCDで音色的に中央〜西アジアっぽい雰囲気を強く出しているのは、Ramazanov の 管楽器で、sax, clarinet, flute とクレジットされているが、西洋的なそれではなく、 特に目立つのは高音がピーピー鳴る zurla のような音だ。けれども、その音も、 soprano sax を吹きまくる John Coltrane とか思わせるところもあって、そういう ところはやはり jazz だなと思う。Izmailov の guitar は特にアジア的な感じはせず、 むしろ、ECM で聴かれそうな巧みさを感じさせる繊細でクリアな electric guitar 演奏だ。percussion とともに軽快な変拍子のリズムを繰り出してくる。録音も良く、 ECM の world music の傾向を持つ作品と共通する感じもある。編成的にはいわゆる bass-less guitar trio であり、もっと即興的な要素の濃い作品と期待したが、 それはあまり無かった。"Near Spring" の冒頭では、そんな展開も見せるが。むしろ、 Tatar っぽい (と思われる) 旋律を生かした演奏になっている。管楽器が高音に 偏っていて音域が狭めなので、bass-less を生かした自由度の高い演奏は合わない かもしれないが。guitar と percussion の作り出すノリも軽快なので、こういう 展開で成功しているように思う。 コンセプト的には ECM が築いてきた world music 的アプローチを越えるところは 無いとは思うけれど、Balkan 〜 Turk の音楽に基づくものほとんど無かったし、 なんといっても、その軽快な変拍子のノリも気持ち良い作品になっている。 お勧めしたい。 このCDをリリースしている Boheme は、1998年頃から活動しはじめている Moscow, Russia のレーベル。www site のURLは http://www.boheme.ru/ 。ECM から2枚の リーダー作のある Misha Alparin の作品などがある。UK のレーベル Leo が紹介 してきた1980年代来の Russia の free jazz / improv. に比べて、良くも悪くも 洗練された音をリリースしているように思う。これからの展開がちょっと気になる レーベルだ。 1999/9/15 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕