Various Artists _Warp 10+1 - Influences_ (Warp, WARPCD67, 1999, 2CD) Various Artists _Warp 10+2 - Classics 89-92_ (Warp, WARPCD68, 1999, 2CD) Various Artists _Warp 10+3 - Remixes_ (Warp, WARPCD69, 1999, 2CD) UKだけでなく欧州の techno をある面 (非ダンスフロア=ベッドルーム志向とでも いうべき) で代表する Sheffield のレーベル Warp の10周年を記念する企画盤が 出ている。CDで2枚組、LPなら4枚組で3タイトル。 最初の _Influences_ は、Warp レーベルが設立される1989年より以前の techno / house 音源が収録されている。意外と latin hip hop / electro っぽい感じを 残しているように思うのも、1980年代という時代のせいなのかも。Mr. Fingers の 曲とか聴くと、"Artificial Intelligence" での音など、house 的なルーツもある のだなぁ、と思う。 二つ目の _Classics 89-92_ は初期のシングル集。Cat. No. 一桁のシングルからの 音源がほとんどで、そうでなくても、1992年頃までの音源である。まだ、"Artificial Intelligence" 的な音作りが主流になる前で、bleep house という呼称があった頃の Sweet Exorcist、Nightmare On Wax、LFO、Tricky Disco などの音である。DJ Mink の hip hop チューンもあり、この方向に伸びていたらどうなったのだろう、と思う ところもある。 最後のはこの企画独占音源の remix 集なのだが、1990年代中前半に特徴的だった "Artificial Intelligence" な音源を飛ばし、非 techno 的というか、いわゆる post-rock 的な音源が多く収録されているのが、 とても興味深い。それは、 Board Of Canada や Broadcast のようなバンドのリリースを Warp が始めている ことが反映されているとも言える。しかし、remix のアーティストとして、Stereolab、 John McEntire (Tortoise)、Labradford、Jom O'Rourke (ex-Gastr Del Sol)、 Spiritualised といったミュージシャンを選ぶことによって強調されている。 Warp というと "Artificial Intelligence" のシリーズで特徴的な、ダンスフロア 向けというより ambient 的な細かく複雑なリズムの techno というイメージを、 僕も強く持っているのだが。ある意味で、"Artificial Intelligence" は1990sの techno 〜 breakbeats において極めてモダニズム的な動きだっただけに、それを 避けているのが意味深長な気がする。既に "Artificial Intelligence" と題した 2枚の編集盤を出しており、改めて10周年で出す必要が無い、と判断しただけかも しれないが。 ちなみに、Warp レーベルの10周年記念サイトの URL は、 http://www.warprecords.com/warp/warp10.html ここで、企画CDの曲目も参照することができる。 この Warp の10周年企画盤のUS盤をリリースするのは、NYの独立系レーベル Matador なのだけれども、このレーベルも10周年ということで、企画盤をリリースしている。 Various Artists _Everything Is Nice - The Matador Records 10th Anniversary Anthology_ (Matador, OLE400-2, 1999, 3CD) CDは3枚組になっており、1枚目と2枚目が "Greatest Hits" の第一部と第二部、 3枚目は未発表音源集となっている。 Matador は、Homestead レーベルの Gerard Cosloy が始めた USにおける post-rock の根城の一つともいえるレーベルだし、今でもそうとはいえる。オープニングを飾る Pavement はもちろん、The Jon Spencer Blues Explosion! や Yo La Tengo なども お馴染みだ。Cat Power や Sleater-Kinney のような、post-Riot Grrrls 的な女性 rock な音も聴かれる (そういえば、Liz Phair が抜けているのが、意外だ。)。 しかし、最近になって、ライセンス音源とはいえ欧州 techno 〜 breakbeats の音源を リリースするようになっており、この編集盤ではその音源も含まれているの。 Nightmare On Wax、Red Snapper、Boards Of Canada のような Warp 勢はもちろん、 Jega、Burker Ink、Pole など。そして、それが意外に違和感なく収録されているのだ。 ちなみに、Matador レーベルの10周年記念サイトの URL は、 http://www.matador.recs.com/10years/index.html ここで、企画CDの曲目も参照することができる。 Warp のような必ずしもダンスフロアを志向しない techno 〜 breakbeats と post-rock というのは、1990sのロック脱構築の文脈では重なるところが多いと、 僕は思う。そして、この2つの10周年の企画盤は、1990sを通していかにその二者が 歩み寄ってきたのか聴くことができる、なかなか良い編集盤ではないかと、僕は思う。 しかし、その一方で、そのような試みも既に終わってしまったものであり、回顧される ようなものになってしまった、とも感じる。この2組の企画盤も資料的価値を感じる 所はあるけれども、今さら聴いて刺激的とは思わない。このようなロック脱構築の 試みが最も刺激的だったのは、1994年から1996年にかけてであり、その頃にリリース された多くのシリーズ編集盤を楽しんで聴いていたことを思い出す。Crammed / SSR の _Freezone_シリーズ、Mo'Wax の _Headz_ シリーズ、Virgin の _Ambient_ シリーズ、 Axiom のシリーズ、…。その一方で、この2組の企画盤には同時代性が欠ける分だけ、 聴いていて魅力の薄いものになっているのかもしれない。 1999/12/5 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕