Han Bennink + Derek Bailey _Post Improvisation I - When You're Smilin'_ (Incus, CD34, 1999, CD) Derek Bailey + Han Bennink _Post Improvisation II - Air Mail Special_ (Incus, CD35, 1999, CD) 1970年頃から、free improvisation で共演を続けている、UKの guitar 奏者 Derek Bailey と Holland の drums 奏者 Han Bennink のデュオのCDが2枚出ている。 実質、2枚1組の作品だ。ちなみに、リリースしている Incus の第一弾は、 Evan Parker / Derek Bailey / Han Bennink, _The Topography Of The Lungs_ (Incus, 1, 1970, LP) だ。 題名にある "Post Improvisation" というのは、「脱 improvisation」を意味して いるようにも思うところもあるが、より直接的に、この音源の制作のされ方を意味 している。郵便を使った improvisation という。CDのジャケットで明らかに 示されているのだが。一方のミュージシャンが演奏を録音し、それを相手に郵送し、 その上にもう一方のミュージシャンが演奏を重ねる、という形で制作されている。 このような制作方法は、ポピュラー音楽全体を見れば、一般的とも言える。しかし、 jazz 〜 free improvisation の文脈では、一期一会的なものを重視する傾向があり、 オーヴァーダビングは忌避されることの方が多い。その点では、このCDは伝統的な improvisation のイデオロギーから足を踏み出している。しかし、実際のところ、 このCDに収められている音を聴く限り、従来の録音から大きく外れるところはない。 Han Bennink は相変わらずドタバタとユーモラスな打楽器音を繰り出してくるし、 Derek Bailey は鋭い electric guitar の音色をカキカキと繰り出している。 それはそれで楽しいのだが。ちなみに、I の方が Han Bennink が先に、II の方が Derek Bailey が先に録音している。そう言われれば、先に録音をした方がペースを 決めている、という感じがする、という程度である。しかし、音源を郵送しオーヴァー ダビングして制作する、という部分を生かしている、というほどでもない。Derek Bailey も最近は DJ などよ共演しているわけだし、Han Bennink も The Ex のような バンドと共演しているわけで、もう少しやりようがあるだろう、と思うところも。 ただ、一期一会的なイデオロギー抜きで同じような音楽を作ってしまう、という ところが面白いとも言えるのだけれど。 このプロジェクトを言い出したのは Derek Bailey なのだが、最近、音源を郵送し オーヴァーダビングして制作するようなプロジェクトにいくつか巻き込まれている。 例えば、Sonic Youth の Thurston Moore による _Root_ (Lo Recordings, LCD11X, 1998, CD) がそうであり、Derek Bailey, _Play Backs_ (Bingo, BIN004, 1998, CD) も同様にして制作されたものだ。そして、この2枚のCDは、こういったプロジェクトで 得た経験を改めて free improvisation の文脈に置き直したものといえる。 _Play Backs_ での打ち込みや breakbeats の代わりに、Han Bennink の drums 演奏の録音を使っているだけで。 一期一会的に非イデオマティックな音を追求する free improvisation は、極めて モダニズム的な面を持っていたし、Derek Bailey はその極北とでもいうべき所に 立ってしまった感もあった、と思っている。_Root_ や _Play Backs_ の「郵便」を 使ったプロジェクトは、そんな free improv. の世界から Bailey を異種混交の場に 引き出すことに成功したわけだし、free improv. の (純粋主義的な) イデオロギーを 脱構築するものだったと思っている。そういう点で、_Root_ や _Play Backs_ こそ、 post improvisation と呼ぶのに相応しいようにも思う。いや、_Root_ や _Play Backs_ は、もはや improvisation の文脈で語られていないだけに、改めて Han Bennink と共に improvisation の文脈に戻す必要があったのかもしれない。 今後、Bailey がこの post improvisation の試みを展開していくのか、楽しみだ。 1999/12/5 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕