1999年に発売された中から選んだ10枚。 第一位: Koch-Schuetz-Studer & Musicos Cubanos, _Fidel_ (Intakt, CD056, 1999, CD). bass-less の guitar/cello trio の、もしくは、ライヴ・エレクトロニクスと サンプリングを用いた即興の、最新様式。Afro Cuban のポリリズミックなリズムの 断片が、DJ的なセンスも持って再編集され、bass-less trio ならではの音域的に 自由度の高い音編成の中に散りばめられている。 第二位: Kocani Orkestar, _Gypsy Mambo_ (Materiali Soniri, MASOCD90114, 1999, CD). シャープなノリなら随一の Balkan の Gypsy brass band の新作は、Algeria 出身で France で活躍する Rachid Taha や Khaled が取り上げた Arab 歌謡 "Ya Rayah" の カバー "Agonija" で (実際、Khaled とは共演もしているのだが)、単に Balkan 風 であることを越えて、汎地中海音楽とでも言えるものに踏み出している。 第三位: Ernst Reijseger / Tenore e Cuncordu de Orosei, _Colla Voche_ (Winter & Winter, 910 037-2, 1999, CD) 欧州 free improv. の cello と、Sardinia の男声合唱と、Celt の打楽器の出合い。 Europe 辺境の伝統の再発見という域に留まらず、例えば Africa の音楽と通ずる ような瞬間を見せるときもあり、その無国籍音楽の域に達している感覚が、美しい。 第四位: Scala, _Compass Heart_ (Touch, Tone9, 1998, CD). 電子音響に近い歪んだビートの中に、Sarah Peacock の個性的な女性ヴォーカルが 浮遊するという Scala の魅力が、簡素な形で生かされた作品。1999年の脱ロックの 姿としては、Stereolab, _Cobra And Phases Group Play Voltage In The Milky Night_ (Duophonic Ultra High Frequency Disks, D-UHF-CD23, 1999, CD) も悪くないが、 それより、この作品の方が魅力的だ。 第五位: Agent Blue, _Blueprint_, (Life, LOWCD6, 1999, CD). Richard Vine による guitar の弾き語りという形式にも限らず、Matthew Herbert の 音世界になっている。Herbert の音処理は、deep house といったダンスフロア指向の 音楽に限らない個性であるという証。しかし、その文脈抜きにしても、その艶めかしい 音が魅力的な一枚。 第六位: Derek Bailey, _Play Backs_ (Bingo, BIN004, 1998, CD). 脱即興=郵便的即興という言葉をそのまま題にした Han Bennink + Derek Bailey, _Post Improvisation I - When You're Smilin'_ (Incus, CD34, 1999, CD) と Derek Bailey + Han Bennink, _Post Improvisation II - Air Mail Special_ (Incus, CD35, 1999, CD) の連作よりも、これらのセッションの契機となった、 一連の作品の一つであるこのアルバムの方が、Derek Bailey が自著 _Improvisation_ (1980) で示した即興のイデオロギーによって構築された文化的障壁を脱構築して、 様々なジャンルを飛び回る可能性を示していると、僕は思う。 第七位: Enver Izmailov Trio, _Minaret_ (Boheme, CDBMR902037, 1999, CD) この作品のコンセプトが、たとえ ECM が1970年代以降示しつづけてきた Europe の 伝統的な音楽と free jazz / improv. の融合の枠内におさまるものだとしても、 Balkan 〜 Turk の音楽に基づくものというだけでも新鮮だった。なんといっても、 その軽快な変拍子のノリが気持ち良いというだけでも、充分に良い作品になっている。 第八位: Various Artists, _South African Rhythm Riot - The Indestructible Beat Of Sowet Volume 6_ (Earthworks / Stern's, STEW38CD, 1999, CD). この South Africa の最新のポピュラー音楽の編集盤に収録されている、kwaito と 呼ばれる house、ragga、あと hip-hop あたりがかなりいい加減に折衷されている 都市型ダンス音楽は、欧米のDJによる Africa や Latin America の音楽の remix に 聴かれる欧米的な洗練とは違ったテイストの可能性を聴くことができる。そこでは、 オープニングの Brenda Fassie, "Vuli Ndlela" の Depeche Mode, "I Just Can't Get Enough" そっくりのベースライン、コード進行も愛敬として済ますことができる ような魅力があると、僕は思う。 第九位: Spigel.Newman.Colin.Malka, _Live_ (Swim~, CUSWM1, 1999, CD). このCD-Rによるメール・オーダーのみの受注生産のアルバムは、彼らのスタジオ アルバムに感じていた ambient 的な物足りなさに live の勢いを補完した出来に なっている。それだけでなく、ラストの2人の guitar のみを伴奏に歌われる Wire, "Ourdoor Miner" に、1980s的ともいえる脱パンクへの郷愁とでもいうものを 聴くこともできるのだ。 第十位: Albert Mangelsdorff Movin' On, _Shake, Shuttle And Blow_ (Enja, ENJ9374-2, 1999, CD). 1970年代に欧州 free improv. を支えた Mangelsdorff が bass-less guitar band と いうコンセプトと、DJ的なライヴエレクトロニクスの使用という、1990年代的な仕様 で帰ってきた。しかし、この作品で最も魅力的なのは、Mangelsdorff が絡まない 電子的ビートと djembe (西アフリカの伝統的な hand drum) と electric guitar の バトルかもしれない。 次点: Violent Femmes, _Viva Wisconsin_ (Cooking Vinyl, COOKCD189, 1999, CD) は、 彼らの folk 的なイデオロギーを示した意図的な作品というだけでなく、1995年の 来日公演での楽しいパフォーマンスを充分に思い出させるだけの作品になっていた。 また、同じハコで同様に楽しいライヴをしてくれた Billy Bragg のレアトラック集 _Reaching To The Converted_ (Cooling Vinyl, COOKCD186, 1999, CD) で聴かれる "Shirley" は、元曲の "Greetings To The New Brunette" が The Smiths の "Jeane" をその裏に忍ばせてあったとしたら、"Sexuality, I demand equality" と歌い上げる "Sexuality" の裏に忍ばせるべきものだった、と思うだけの素晴らしい出来だった。 番外特選: 積極的にライヴに行かなかったこともあり、これといった生演奏を聴くことが できなかったのだけれども、そんな中では、Frederic Rzewski @ 神奈川県立音楽堂 (1999/5/17) で、"The People United Will Never Be Defeated!" (1975) の生演奏を 観られたのが嬉しかった。いやそれよりも、アンコールの "Down By The River" の 前に Rzewski が客席に向かって、こういった曲を編曲し演奏するときの思いを語った、 そのときの彼の様子が印象に残っている。 2000/1/1 嶋田 "Trout Fishing in Japan" 丈裕