『アレクサンドルの墓』 (Chris Marker (dir.), Le Tombeau d'Alexandre, 1993) の上映に併せて、そのドキュメンタリの題材となった映画監督 Alexandre Medvedkin の作品の上映が行われた。『アレクサンドルの墓』は残念ながら見逃したのだが、 Medvedkin の映画は観られた。なかなか上映される機会の無い映画だと思うけれど、 それについてコメント。 『幸福』 _Schastiye_ a.k.a. _Happiness_ - U.S.S.R., 1934, B+W, 95min. - Directed by Alexandre Medvedkin. Medvedkin は Stalin 時代というべき1930〜40年代に主に作品を残している監督だが。 実際のところ、1920年代の Avant-Garde な作風とも違うが、いわゆる、社会主義 リアリズム風の作品でもなかった。かなりシュールで棘のある笑いのある寓意を感じ させる映画で、そのシュールさが post Avant-Garde なのかなぁ、という気もした。 このセンスって、その後の東欧 (特に Czech) のアニメのセンスに繋がっている ような気もする。 主人公の農夫 Khmyr (日本語字幕では「グズ」となっていたが、そういう意味なの だろうか。) は、革命前は帝国の貴族や地主、聖職者に搾取され、革命後は集団農場 で役立だず扱いされ。最後に火事から馬を救った英雄となって、突然都会に出てモボ になってハッピーエンド、という物語なのだが。 しかし、それより、デティールが面白い。特に革命前の方が秀逸だった。農耕馬の 水玉馬のヴィジュアル・センスが最高。馬に代わって鋤を引くシーンは、『十月』 (Sergei Eisenstein (dir.), Oktyabri, 1928) の有名な大砲を牽くシーンのパロディ になっていて、笑えるし。収穫を搾取しに集まってくる人たち (特にシースルーの 服を着た尼僧) も笑えるが、農夫が自殺しようとしてそれを阻止するために集まって くるところではもっとエスカレートし、ついに、軍隊 (それも中華街で売られて そうな面を付けた) 登場。かなり、シュールに風刺化されたイメージが楽しめる。 革命後のシーンで印象的だったシーンは、トラクターに乗る Anna (女性主人公)。 Dziga Vertov (dir.), _Three Songs Of Lenin_ (1934) の中でも、女性がトラクター に乗るシーンが、ポイントになっており、その関係が興味深かった。といっても、 一方が他方から影響を受けたということではなく。その当時の服飾デザインを扱った Tatiana Strizhenova, _Soviet Costume And Textiles 1917-1945_ (Flammarion, ISBN2-08013-515-5, 1991) という本があるのだが、その表紙を飾っている テキスタイル・デザインのモチーフも「トラクターに乗った女性」なのだ。 当時は、女性がトラクターを乗りこなすということが、一つの社会の理想の姿 だったんだろう、と、感じさせるものがありますし、それを映画の中で映像化した ものを観ると、やはりグッときてしまう。もちろん、この映画では、馬車を御する Khmyr との対比、としても使われていたわけだが。 このような感じで、シュールで諷刺の効いた笑いが堪能できた映画だった。 2000/12 (2000/2/10) 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕