_Ceremony Of Innocence_ (Real World, ISBN0-9520864-7-6, 1997, CD-ROM) - Based on the trilogy of Griffin and Sabine, _Griffin and Sabine_, _Sabine's Notebook_ and _The Golden Mean_ by Nick Bantock. - Featuring: Paul McGann, Isabella Rossellini and Ben Kingsley. - Producer: Gerrie Villion. Creative Director: Alex Mayhew. Musical Director: Alex Gifford. Real World 的な world music 関係や _Eve_ (1996) のような Peter Gabriel がらみのマルチメディアをリリースしている印象がある Real World のCD-ROM だけれども、この CD-ROM 作品は、Real World のレーベルの色とはちょっと 異なるものだった。ちなみに、フォトンラボ (http://www.photon-lab.co.jp/) から、日本版が去年リリースされている。 ちなみに、この作品の元になっているのは、UK 生まれで Canada 在住の絵本作家 Nick Bantock による絵本三部作。以下のような箱入りのセットになっている。 絵本といっても、明らかに大人を読者に想定したものだけれども。 Nick Bantock _The Griffin & Sabine Trilogy_ (Chronicle Books, ISBN0-8118-0696-0, 1993?, 3books+box) - _Griffin & Sabine_ (Chronicle Books, ISBN0-87701-778-3, 1991, book), _Sabine's Notebook_ (Chronicle Books, ISBN0-8118-0180-2, 1992, book) and _The Golden Mean_ (Chronicle Books, ISBN0-8118-0298-1, 1993, book). この絵本は、London に住むの絵葉書作家の男性 Griffin と、南太平洋の島に 住む切手をデザインする女性 Sabine の文通の、絵葉書や手紙を集めたもの、 という形になっている。絵葉書は頁の裏表に印刷されているだけだが、手紙に かんしては、本当に封筒が頁に貼り付けられ、その中に手紙が収められている、 という形を取っている。 この文通という形から読み取れる断片的な二人のすれ違いを続ける物語は、 少々ロマンチックに過ぎる嫌いもあるかもしれないが。残された手紙のような、 限られた手がかりを繰っていくような楽しみはある。実際に封筒を開けて 手紙を取り出して読む、という形を取っているだけに。 Real World によるこの絵本の CD-ROM 化は、いわゆるマルチメディア的な ギミックをほとんど使わない地味な作りで、ゲームと言い難いけれど、 3冊の絵本の75枚の絵葉書や手紙を集めていく楽しみを巧く演出したものに なっていると思う。絵葉書をひっくり返して文面を読んだり、封筒を開ける ために、ちょっとした鍵探しのようなことするところはゲームっぽい楽しみも あるし。一度に本の形で与えられるのではなく、一枚一枚集めていくような 楽しみもある。葉書や手紙の朗読は、画面は絵葉書や手紙を表示するだけ (手紙の場合は、若干の効果を付けているが。) 状況説明的な画面を付け ないのが、むしろ効果的。断片的な情報から想像力をかきたてられるような ところが、うまく残っている。 日本版ではこの朗読を吹き替えにしたようだが、おそらく文面は英語のまま だけに、うまく書面と声の相乗効果を残せているのか、気になるところがある。 葉書や手紙の書面の表示と声がシンクロしているようなところもあっただけに、 むしろ、字幕にした方がよかったのではないか、と思うところもある。 ある程度英語を読むことができる人であれば、書面が見られるので、字幕や 吹き替えも不要な気もするし。 そう、この原作の方も、河出書房新社から日本版が出ているのだけれども。 流石に手紙や葉書のテキストが手書きで、それもイラスト的にデザインされ たものだけに、そこを日本語で置き換えるわけにもいかず、テキストの 日本語訳の小冊子を添付するような形を取っている。その小冊子のデザインが あまりにも安っぽくて、ちょっと残念なのだけれども。それに、日本では 箱入りのセットとしては出ていないようである。 もし、僕が本であれCD-ROMであれこの作品の日本版のようなものを企画する としたら、全テキストを載せた副読本、というか、ゲームの攻略本 ― CD-ROM はゲームという面でもあるわけだし ― のようなものを企画し、オリジナル版の 箱入り絵本なり CD-ROM なりに添付する、という方法を取るような気がする。 その方が、この作品の持つ雰囲気が生きたのではないかと思う。というか、 結局、オリジナル版の箱入り絵本と CD-ROM を入手してしまった立場としては、 翻訳、吹き替えというものよりも、攻略本のようなものを作ってみたいと感じた。 2000/3/5 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕