デヴィッド・ロッジ 『胸にこたえる真実』 (白水社, ISBN4-560-04686-7, 2000) - 高儀 進=訳; David Lodge, _Home Truths_, 1999. イギリスのコミック・ノベル作家の新作の翻訳。前作『恋愛療法』(_Therapy_, 1995; 白水社, ISBN4-560-04641-7,1997) が楽しめなかったのだけど、この作品は楽しく 読むことができた。期待通り、ではなく、ちょっと意外なところもあったのだけど。 最も意外だったのは、中編で会話文がとても多い、という形式。もともと、芝居の 脚本として書かれた、ということもあるのだろうが。辛辣な(逆)インタヴュー、 という題材と形式が、ぴったり合っている。地の文における心理描写の代わりに、 インタヴューや会話でぽろっとこぼすような言葉を使っている、というところか。 もちろん、地の文での心理描写とは違った、「劇」的な効果が出ているわけだが。 特に、悪口記事を書くことで有名な女性記者ファニーと引退した小説家である 主人公のエイドリアンとの (逆) インタヴューでの、オフレコになったときの会話や、 エイドリアンの妻エリナーがふとファニーにこぼす愚痴、といったところでの、 会話文の使い方が、この小説のハイライトだろう。芝居としては失敗したそうだが、 小説という形式にしたおかげで、こういう手法が生きたようにも思う。 もちろん、題名の "home truth" というのは「人の痛い所を衝く言葉」という意味 だそうだが、そういう辛辣なジョークの効いたやりとりも、単純に面白いのだが。 そういう点でも、さっとテンポ良く読める作品だと思う。 『大英博物館が倒れる』(_The British Museum Is Falling Down_, 1965; 白水社, 1982) を読んで以来、新作を楽しみにしている作家なのだけれども、まだまだ 期待できると思わせてくれた作品だった。 2000/3/22 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕