『デペロの未来派芸術展 ― 20世紀イタリア・デザインの源流』 _Depero Futuristic Art_ 東京都庭園美術館, 港区白金台5-21-9 (目黒), tel.03-3443-8500 2000/4/4-5/34 (4/12,4/26,5/10), 10:00-18:00 モーターの付いた動く彫刻 "Complesso Plastico" などの作品で知られる、 20世紀前半に活躍したイタリア未来派の美術作家・デザイナー Fortunato Depero の回顧展なのだが、洒落っ気と茶目っ気を感じるとても楽しい展覧会になっていた。 1915年の未来派のマニフェスト _Ricostruzione Futurista Dell'Universo_ に 出てきた _Complesso Plastico Colorato Motorumorista Simultaneo di Scomposizione a Strati_ も展示されていたけれど、残念ながら動態ではなかった。 しかし、見た目地味なそれよりも、二階に上がってすぐの所に展示されていた、 1918年に Teatre dei Piccoli, Rome で上演された人形劇 _Le Rivista Delle Marionette (I Balli Plastici)_ (『人形のパレード (造形バレエ)』) の ずらっと並んだ人形が圧巻。カラフルでロボット風の人物や動物の人形が、 とてもユーモラスで楽しそうな雰囲気を作り出している。人形劇として再演する ことが不可能でも、これらの人形を使って人形アニメーションでも作ってくれると 面白いように思った。そう、このロボット人形の顔のようにデザインされた家具の モックアップもあったりして、NHK教育TVで放送されている人形アニメーション 『ロボット・パルタ』のルーツを見たようにも思った。 広告美術やタペストリを中心に日用品のデザインも多く手掛けていた人なのだが。 広告美術の中では、なんといっても食前酒 Campari の一連の作品。特に人形が "I Balli Plastici" の人形と同じような芸風のもので、可愛いらしくて良かった。 そう、機能的で飾り気の少ない Avant-Garde なデザインというよりも、もっと 洒落っ気があるというか装飾的な感じで Art Deco に近いかもしれない。しかし、 屋外にあるミュージアムカフェ「カフェ庭園」のパラソルの一本が偶然か意識 してか Campari のものになっていたのだけれど、Depero のデザインとか関係 ないものだったのが、ちょっと残念。 タペストリも、動きを強調した未来派らしくカラフルでリズミカルなものだった のだが、良かったのは、Marinetti のためにデザインした魚の青いヴェスト。 写真を見ると、他にも様々なデザインのヴェストが作られ、未来派の「制服」と して着られていたようだけれども。そう、未来派の割には機械のモチーフが少なく、 あってもロボットのようなもの。魚や鳥を幾何的に表現したモチーフを好んで いたようにも思う。これらのデザインは、シャツやネクタイ、スカーフや皿などに 作っても、充分に使えるように思ったのだけど。それなりにグッズは売られて いたけれども、いまいちこれだというものが無かったのは残念。 New York 滞在中に見た街の様子を描いた絵画とかは、それほど魅力的ではなく、 舞台美術や広告、デザインで映えるというのも、このころの前衛の作家らしいと 思った。それから、イタリア未来派、ということで、ファシズムとの関係を 思わせるタペストリも展示されていたが、それほど政治的な点については言及を 感じさせない展示になっていた。 Art Deco の洋館である旧朝香宮邸を使った東京都庭園美術館での展覧会は 現代美術の企画を中心にそれなりの回数を観ているが、今回の展覧会は、室内の 装飾と作品がよくマッチした感じになっていて、それも面白かった。やはり、 こういうハコでは、戦前モダンの頃の作品が最も馴染むのだろうか。 2000/4/9 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕