Heiner Schilling, _The Entropic Forest_ 横浜美術館アートギャラリー, 横浜市西区みなとみらい3-4-1 (桜木町), tel.045-221-0300. 2000/5/27-6/25 (水休); 10:30-17:30. ヨコハマ・ポートサイド・ギャラリー, 横浜市神奈川区栄町5-1 YCS 1F (横浜), tel.045-461-3033. 2000/5/27-6/25 (水休); 11:00-18:00. 横浜の2個所のギャラリーを使っての、ドイツの写真家 Heiner Schilling の展覧会。 『ドイツ現代写真展「遠・近」− ベッヒャーの地平』展 @ 川崎市市民ミュージアム (1996/11-1997/1) でも展示されていた "Becher Schueler" の作家で、タイポロジー というか、パターンを強く感じさせる構図での写真というのは、予想通り。 ヨコハマ・ポートサイド・ギャラリーの、一つの壁に並べられた駒沢球技場を捉えた 3枚の写真では、一つはゲートボール、一つは弓道、一つは綱引きが、フィールド 上で繰り広げられている様子が捉えられている。それらの写真は、構図はもちろん、 空の陽気や画面の明るさまで同じようになっている。このような同じパターンの 反復という形式が、異なる社会的文脈から生まれたスポーツの収容を可能とする、 コンクリート打ちの近代的な球技場の方形のミニマルな空間の普遍性を際立たせる ようであり、その一方で、中で行われている競技の社会的文脈の違いを、写っている 人々の年齢層や服装、動きの激しさ、といった写真の中に反映されているものを 通して見せられているようで、とても興味深い。特に、中で繰り広げられている 競技は、いわゆる、近代スポーツの文脈で見た場合、オリンピックの正式競技に ならない、もしくはなりづらいような、脱近代的もしくは前近代的と言われる要素が 強いものが選ばれているため、それが際立っているように思う。この展覧会で、 最も面白かったのは、この一連の写真だ。 過去20年ほどの間に建造された社会基盤的な建造物を撮影してきているために、 大規模集合住宅や埋め立て地に開発されたビル街といった、東京近郊の匿名的な 風景を捉えた写真が多い。それは、ホンマ タカシ 『東京郊外』 で撮影されている ような光景と共通するところが多い。しかし、ホンマ タカシ の一連の写真には 形式を際立たせるような所が感じられない。そのため、とても視点が定まらない、 悪く言うとぼんやり社会基盤の近代化を眺めて受け入れてしまっているような印象を、 僕は受ける。しかし、Heiner Schilling の作品からは、その形式性から、社会基盤の 近代化、そしてそれに収容されるスポーツのような文化の近代化の意味を見据えよう という、強さを感じるのだ。そして、それが、僕が、ホンマ に比べて Schilling の 方がずっと良いと感じる理由だ。 横浜美術館アートギャラリーでも、異なる日時における2枚の写真の組が左右対称に なるように配置されており、その形式性が確かに面白いのだが。しかし、こちらの ギャラリーでは、鉢植えの植物が床に並べられ、森 威功 による電子音響な B.G.M. も流され、いささか和むような空間になっていた。ヨコハマポートサイドギャラリー のような、写真を通して近代化を見据える強さを感じさせる展示、というより、 ギャラリーを出ればすぐに観ることができるのと同じような光景を空間デザイン的な 感覚で抽象的にアレンジした感じもあって、その雰囲気の違いも面白かった。 2000/6/24 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕