『ブック・オブ・ライフ』 _The Book Of Life_ (アップリンク, ULD-007, 2000, DVD) - France / USA., 1998, color, DV, 63min. - Directed and Written by Hal Hartley. - Martin Donovan (Jesus Christ), P. J. Harvey (Magdalena), Thomas Jay Ryan (Satan), Dave Simonds (Dave), Miho Nikaido (Edie), etc 『ヘンリー・フール』 (_Henry Fool_, 1997) に続く、New York の独立系の 映画監督 Hal Hartley の長編作品。この作品は DV (digital video) で撮影 されており、フィルムの映画とかなり質感の異なる画面の作品となっている。 フランスのTV局 La Sept Arte の委嘱による作品ということもあるのか、 スクリーンに上映するというより、モニターで観ることを想定した質感だろう。 劇場で上映されてもいるようだが、このDVDで観た方が良いのかもしれない。 DVらしい画質を際立たせていたのが、素子が飽和することによって生じる白抜け した空や明るい窓だったりするのだが。ブレを強調したような画面もデジタル 処理によるものかもしれない。セットを使わず軽い街中ロケで済ました感もある 舞台作りも、DVならではのフットワークの軽さを感じる。画面は常に10度ばかり 傾いており、これとブレが合わさって、手持ちカメラ (実際は観てみても酔う わけではないので、演出効果なのだろうが。) によるスナップショットのような、 画面の軽さと不安定さ、そして、仮の作りを感じさせていた。この仮の作りを 感じさせる画面は、テーマの持つ宗教的なものを相対化し、俗なものに置き 変えるときに、効果的だったと思う。 テーマは、キリスト教における2000年終末論であり、再臨した Jesus Christ が 主人公。しかし、その Christ も、外見はビジネスマンという感じで、封印を 解くべき "The Book Of Life" は Power Book になっていて、ポップアップ メニューで封印を解く、といったありさま。対する Devil もやさぐれビジネスマン。 バーでの Christ と Devil の会話も、かつての同じ会社の同僚、という設定で、 Devil 曰く「だから、おれは独立して仕事を始めたんだ。」、Christ 曰く 「いやちがう。お前はクビになったんだ。」とでもいう感じ。妙に人間臭い というか、俗な感じになっていて、宗教や終末論との落差が笑えるのだ。 真面目なキリスト教徒なら冒涜だと思うのではないか、と、思ってしまうほど。 この Christ と Devil との対話の中で、デビルに「俺よりも人間臭い」と言わ せるほどの Christ なのだが、最も人間臭さを感じさせるのは、ビジネス的な 設定や Power Book のような小道具ではなく、登場人物の優柔不断さだろう。 主人公の Christ は、2000年に世界に終末をもたらすのを躊躇し、結局は止めて しまうのだ。Hartley の映画は、この優柔不断がテーマになっていることが多く、 まさにそれを題にまでした『フラート』 (_Flirt_, 1995) がそうだったわけだし、 『サバイビング・デザイアー』 (_Surviving Desires_, 1991) も主人公の 優柔不断な文学の講師の口癖「たぶん」が印象的な映画だったわけだが。 優柔不断なキリストを演じているのは、こういった Hartley の映画で優柔不断な 男性主人公を演じ続けている Martin Donovan。これが、とてもはまっていて 良かった。僕にとって、Hartley の映画の楽しみになっているほどだ。 終末論の周囲で見え隠れする現実社会の問題への言及も見え隠れしているのだが、 そういう社会的なコメンタリーはこの映画の主眼じゃないだろうし、宗教的な 権威やモラルに訴えてはいなかったのは良かったが、いささか矮小化されていた ようなきらいはあったと思う。ま、キリスト教の終末論 をネタにした、 優柔不断に関する喜劇、という感じで、その軽妙さが良かったように僕は思う。 rock 女性歌手 P. J. Harvey が Magdalena を演じており、最近はほとんど興味を 失っていたものの、彼女のデビュー作 _Dry_ (Too Pure, PURE010CD, 1992, CD) が大好きだった僕にとって、とても気になっていたのだが。セリフがほとんど 無かったせいか、個性的な顔もあって、良い存在感を出していていたように思う。 歌うシーンがほとんど無かったのがちょっと残念だった。 2000/7/2 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕