松蔭 浩之 『Star』 ミズマ・アート・ギャラリー, 渋谷区神宮前5-46-13ツインSビル1F (表参道), tel.03-3499-0226, http://www02.so-net.ne.jp/~mag/ 2000/6/15-7/15 (日月休), 11:00-19:00 叫んでいるかのような十代後半から二十代頭くらいの女性たちがコンサート・ ホールの客席を埋めている様子のスチル写真が、ギャラリーの壁一面に大きく 引き伸ばされ展示されている。ギャラリー内は暗く、中央にスポットライトを 浴びたマイクスタンド。入口からつかつかと、そのマイクスタンドに歩み寄り、 マイクに手をかけてコツコツとやったところで、ライトアップされ録音された キャーという嬌声がギャラリー内に響き渡った。軽く声を出すたびに、この ような「反応」を得ることができる。 しかし、そこで、自分にはこの写真とマイクに向かって叫びたい、やりたいと 思うようなことなど何も無いということに気付いてしまった。叫ぶよりも語りたい、 というのとも、ちょっと違う。もし独りではなく他の人と一緒にこの展覧会を 観に行ったのであれば、たとえ、それがハズレようと、ウケ狙いでマイクの前で 何かしたかもしれない。ゴキブリコンビナートの芝居『腑恥屠魔屠沙羅唾記念日』 に出てきた「♪もてて〜、もてて〜、こまるんだ〜」のような歌など、ここで 歌うにはうってつけかもしれない、と思ったのも事実だ。しかし、そういうことを 考えるのは、マイクの入力を受けて自動的に再生される嬌声のような反応を 想定してではなく、一緒に観に行った人の反応を想定してのことだ。だから、 独りで観に行って、このマイクの前で感じるのは、この手の人の反応とは異なる、 ディスコミュニケーションの感覚だった。 松蔭 浩之 は、もともと、コンプレッソ・プラスティコ という美術のユニットで 活動した後、最近は、ソロで活動。また、コージャラスというロック・バンドも やっている。この『Star』は、このロック・バンドでの経験を反映したものなの かもしれない。作家の意図として、どこまで本気で、どこまで風刺のつもり なのかは知らないけれども。僕にとっては、ポップやロックのライブに観られる 熱狂を、ちょっと醒めて見るけど、あえてバカをするような諧謔を感じた。 ま、親しい人たちと行って、互いにギャクや芸とか見せ合って遊ぶとして 舞台装置として使う、っていう、単純な楽しみ方で充分のようにも思うけれど。 2000/7/13 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕