原美術館のバスツアーで行ってきました、新潟県の十日町地域、6市町村 (越後妻有) で展開されている、3年に一回開催されるアート・イベントの第一回。一日しか 使わず、それも松之山町は観て回ることができなかったが、観て回れた範囲での 感想を。どういう作品かは公式サイトの説明を参考にして欲しい。 (『マジマート in 松代』については、http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/DoH/00072301 に別途レヴューしてある。) 『越後妻有アート・トリエンナーレ2000』 http://www.artfront.co.jp/art_necklace/top.htm 十日町市、中里村、津南町、松之山町、松代町、川西町 http://www.tiara.or.jp/~t_kouiki/ 2000/7/20-9/10 全体の印象というのは、これだけの規模でやれば、面白い作品もそれなりにある、 ということ。もちろん、世界中から面白い作品を作ってきている作家を集めて いるだけのことはある。例えば、松代町の松代城跡の展示だけ観ても、僕が 東京近郊で観てきた野外彫刻展と比べても遜色の無い展覧会になっていると思う。 しかし、オープニング直後の飛び石連休の割には、観て回っている人が少なかった ようにも感じた。そういう点で、トリエンナーレ・センター界隈をはじめ、 ちょっと盛り上がりに欠けると感じた場所もあった。 それでは、観ることができて印象に残った作品やサイトについて、それぞれコメント。 観る前から期待も大きく、やはり良かったのが、James Turrel, _House Of Light_ (川西町)。宿泊用の建物なのだが、Turrel 的な間接照明が随所に仕込んであるもの。 確かに、美術館でのインスタレーションのような微妙な光加減を楽しめるものは 多くはなく、単なる間接照明じゃないか、と思うようなところもあったのだが。 しかし、特に浴室などは淡い照明だっただけに、宿泊して夜に観れば、もっと 綺麗に観られたかもしれない。と、一度、宿泊して観てみたいと思うくらいの 仕上がりだったとも思う。そんな中で、開く天井によって切り出されている 青い空を見上げられたのは、良い天気だっただけに、吸い込まれるようで、 とても気持ち良かったけれども。 単独の作品ではないけれども、松代町の松代城址に展開している野外彫刻群も、 ちょっと急な段や坂を登るけれども、軽いハイキング気分で観て回ると楽しい。 駅からも目立つ Ilya & Emilia Kabakov, _Five Sculptures on the Mountain, Where the Rice Is Grown_ (松代町) も、川の手前の台からだけでなく、是非、 棚田を登って彫刻の大きさを実感したい。林の中の 橋本 真之 や 小林 重予 の彫刻も、溶け込んでいるようで変化もあって良かったし。上の方の棚田の中に 立つ 牛島 達治 『観測所』 (松代町) で、周囲の音を聴いてみることもできる。 さらに抜けてどんどん登って一番上にあるのは、國安 孝昌 『棚守る竜神の御座』 (松代町) という丸太と煉瓦をうずたかく積み上げた作品。ほとんど力技としか 思えないけれども、圧倒感があるから良い。 松代町でも駅を挟んで反対側の山の上、芝峠温泉にある Francisco Infante, _Point Of View_ (松代町) は、画像処理を物理的にアナログしたかのような 写真を撮影するもの。仕組みは単純だけれども、その場でインスタント写真で 撮影してもらうと、出来上がった写真はもちろん、その画面が次第に浮き上がる 感じも面白い。場所が不便だけれども、「マジマート in 松代 キャンペーン・ カー」に乗って行かれる。 蔡 國強 『ドラゴン現代美術館』 (津南町) は、登り窯を美術館にしようという プロジェクト。登り窯が燃えていたらまた違うのだろうが、火が消えて煉瓦を 搬出しているところだったので、観ていてもいまいちだった。 西 雅秋 『Bed for the Cold』 (津南町) は、直径10m の巨大な FRP 製の白い リングを、農業用用水池に浮かべたもの。形状や色がミニマルなだけに、 周囲の水や緑とのコントラストも強烈。用水池の周囲を歩くと、見え方が 変わっていくように感じるのも、おもしろかった。 Richard Wilson, _Set North for Japan_ (74°33' 2")_ (中里村) は、 London にあるという自宅の構造を、並行移動して設置したもの。家の構造が 倒立している、という不安定さが凄い。それも、三階建てのようで、すぐとなり に立っている神社の鳥居よりも大きいのが、遠目からも迫力だ。実は、車窓から しか観られなかったのだが、構造物の中から観てみたかったと思う。 磯辺 行久 『川はどこにいった』 (中里村) は、旧信濃川の流路跡を、黄色い 旗の列で示すというもの。一見、Kristo のアンブレラの小規模版のようでもあり。 しかし、現在はほとんど流路の跡形も無い状態なので、コンセプトを知ると、 地図の上で線で示すのと違った印象の強さを感じて、なかなか興味深かった。 Daniel Buren, _La Musique, La Dance_ (十日町市) は、1996年に水戸でやった ような、商店街のアーケードに旗を付けるプロジェクト。といっても、水戸では 垂れ幕のようなものをアーケードの屋根の下に下げていたのだが、十日町市では、 幟のような形状のものを、アーケードの上に連ねていた。しかし、予想以上に 地味な印象。商店街の勢いの違いが観る方に影響しているようにも思うのだが。 佐藤 時啓 『三つの眼が互い違いの風景を映し出す蛇行した空間』 (十日町市) は、人が中に入れるほど巨大なピンホール・カメラ、というか、カメラ・ オブスキュラ を蛇行するように連ねた作品で、そのオブスキュラの中を通ると、 壁面に外の風景が上下反対に投影されているわけだが。その投影されている 風景に動きがあった方がずっと面白い作品だと僕は思っている。十日町市中の それなりに人や自動車の移動のある場所に設置されていたので、楽しめなかった わけではないが、もっと動きのある大都市の繁華街に設置したほうがずっと 面白いだろうなあ、と思った。そういう意味では、越後妻有での展示には向いて いないのかもしれない。 以上が、特に印象に残ったものについて個別の作品への簡単なコメントだが、 ここに挙げなかった作品が全てつまらなかったわけではない。(挙げ始めると きりがないので、この程度の数で抑えている。) このプロジェクトの企画や運営についてだが、数年に一度、思い出したように やるのではなく、継続的なプロジェクトが背景にあって、3年に一回というのは その発表会という位置づけのようだった。「ニューにいがた里創プラン」の一環の プロジェクトということで、地域振興という意味もあるようだが。いささか 土建的というかハコモノ的な部分も残っているようには思うけれども、美術館を 派手な建物で建てるというよりはかなりソフト的になっており、良さそうに思う。 といっても、第一回の、それも会期が始まったばかりの一日だけ観て、そのような プロジェクトの成否、是非の雰囲気を感じるのは困難だと思うので、多くは語る つもりは無いけれども。 _ _ _ 最後に、これから観に行こうという人に、簡単な情報を。 全部で150近い数の作品が、762km^2 という広域に展開しており、一日では全部を 観ることは到底無理。全部を観てまわろうと思うなら、3〜4日間かける覚悟が 要るだろう。現地に行ったからといって、そうそう全容がつかめるわけでも無いし、 雰囲気がつかめるというものでも無いだろう。 僕はバスツアーがあったので、無難に観て回ることができたが、行く前に充分に 予習をして、絶対に観ておきたい作家を絞り込んで計画的に観て回る必要がある だろう。漠然と行っても、あまり見られずに帰ることになりかねない。それから、 徒歩や自転車では観て回るのは絶望的なほどに分散しているので、自動車で 回ったほうが良いだろう。作品によっては、観られる時間帯が限られていたり するものも多い。その一方、会期後にもパーマネントな展示が予定されている ものも多いので、それは別の機会に観に行く、などの戦略を立てるのも一計 かもしれない。 2000/7/24 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕