今年 (2000年) の春にオープンしたばかりの浦和市の美術館。コレクションの 収集方針が「浦和ゆかりの作家」と「本をめぐるアート」ということで、 開館記念としてそれに関する展覧会が開催されている。後者に関する第二弾の 展覧会を観てきた。 『もうひとつの扉: 20世紀・アーティストの本』 うらわ美術館, 浦和市仲町2-5-1浦和センチュリーシティ3階 (浦和), tel.048-827-3215, http://www.uam.urawa.saitama.jp/ . 2000/7/1-8/27 (月休), 10:00-20:00 戦前のアヴァンギャルド・デザインの本から、最近のアーティスト・ブックまで 集めた展覧会。戦前のアヴァンギャルド・デザインの本は、定番ものが多かった もののそれなりに楽しめたが、戦後のアーティスト・ブックは、いまいち。 これなら、ギンザ・グラフィック・ギャラリーなどで開催される、グラフィック・ デザイン〜装丁デザインの展覧会の方が面白いのではないかと思うところも。 本そのものを作品にするという自律性を持て余しているような印象さえ受けて しまった。逆に言えば「本をめぐるアート」の中に、優れたグラフィック・ デザインや装丁デザインの本を含めても良いのではないか、という気もしたが。 Russian avant-garde のタイボグラフィの名作 El Lissitzky, Vladimir Mayakovsky, _Dlya Golosa_ (1928) とか、ボルト留めの Fortunato Depero, _Depero Futurista 1913-1927_ (1927) など定番の本は良いとは思うけれど、新鮮味は無かった。 そんな中では、Bart van der Leck による De Stijl なデザインによる H. C. Andersen, _Het Vlas_ の本 (1941) が新鮮。このフォントは読み易い ものではないけれど、インパクトはあった。 Max Ernst のコラージュ本 _La Femme 100 Tetes_ (『百頭女』, 1929) や _Reve D'Une Petite Fille Qui Voulut Entrer Au Carmel_ (『カルメル修道会に 入ろうとしたある少女の夢』, 1930) などは、最近は文庫で入手可能になり、 それほどレアな感じはしなくなっているが。こういったコラージュ本ではなく、 これらよりずっと後期の、もっと図版も抽象的でタイポグラフィック・デザイン された感じの本である Max Ernst, Iliazd (Ilia Zdanevich), _Maximiliana, Ou L'Exercice Illigal De L'Astronomie_ (『マクシミリアーナ、あるいは天文学の 非合法的行使』, 1964) がカッコ良かった。こんな作品もあったのか。 1980年代初頭の Factory レーベル界隈のレコードジャケットで、これとほとんど 同じようなデザインのものを見た覚えがあるのだが、残念ながら何だったか 思い出せない…。 この頃の多くのアーティスト・ブックとなると、例えば Fluxus の出版物とかに しても、コンセプト的な意味以上のもの見出せないのも確かなのだが。 そんな中では、Edward Ruscha の一連のアーティスト・ブックは、タイポロジー 的な写真を生かすような、シンプルな装丁がなされていて、良かったように思う。 この頃の Ruscha の写真作品は、Bernt & Hella Becher のようなタイポロジー 的な作品というだけでなく、アメリカの郊外の画一的な風景を冷徹に捉えた感も 好きだし。ホンマタカシのような最近のある種の都市写真を観るにあたっての、 基準点になりうるものだと、僕は思っている。そのような _Some Los Angels Apartments_ (1965)、_Nine Swiming Pools and a Broken Glass_ (1968)、 _Twentysix Gasoline Stations_ (1969)、_Real Estate Oppotunities_ (1970) といった写真作品が、同じような装丁のアーティスト・ブックとして発表されて いるというのも、面白いと思った。_Every Building on the Sunset Strip_ (1966) は、蛇腹のように展開できて、通りに面した建物を一覧するような面白さも 生きているし。ちょっと大判の _Thirtyfour Parking Lots in Los Angels_ (1967) も、空から見た駐車場の枠線の面白さが生きている。展示後半の一番の見所だろう。 噂に聞いたことがあった、1行毎に切れ目が入って様々な行の組合せの詩が楽しめる Raymond Queneau, _Cent Mille Milliards De Poemes_ (『100兆の詩』, 1961) の実物も観ることができたが、詩の中身が判らないと、印象も半減という感もした。 このように、個別にはそれなりに見物の作品はあったけれども、全体としては 「アーティストが作った」という以上の筋が見えない、ちょっと印象の弱い 展覧会かもしれない。 2000/8/6 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕