『ルナ・パパ』 _Luna Papa_ - Germany / Japan / Austria / Switzerland / France / Russia, 1999, color, 107min. - Directed by Bakhtiar Khudojnazarov. Written by Irakli Kvirikadze. - Chulpan Khamatova (Mamlakat), Moritz Bleibtreu (Nasreddin), Merab Ninidze (Alimzan), Ato Mukhamedshanov (Safar), etc. Dushambe, Tadjikistan 出身の若手監督 (1965年生まれ) による Tadjikistan の 小村を舞台にした映画。といっても、監督は Moscow をはじめ欧州を拠点に活動 しているようで、笑いをはじめ、その作りも欧州的な洗練を感じるように思う。 僕がこの映画を観て最初に連想したのは、_Underground_ (1995) や _Black Cat, White Cat_ (1998) などを監督した Yugoslavia の Emir Kustrica だ。 Tadjikistan の小村で父親が判らない子を妊娠してしまった Mamlakat の「悲劇」 ― それも村の人々からの迫害による ― を描いた映画なのだけれど、明らかに 非現実的な設定も多く、映画を観ているとそれほど「悲劇」的には感じられず、 むしろいささかファンタジー的に、「喜劇」的にそれは描かれている。ときには、 ドタバタ的に現実を異化してくれるし、ファンタジー的な演出も反語的に現実を 巧く感じさせるものになっていた。 例えば、最後のシーン、村の人々に追いつめられて家の屋上に登った Mamlakat は、 家の天井についた扇風機を動力に屋根ごと天に飛んで救われ、そこに妊娠した子に 向けられた "Happy Birthday" という字幕が添えられるのだが、この明白に馬鹿げて 非現実的な感じが、むしろ、Mamlakat は救われずに、実際は屋根の上から飛び降りて おなかの子と一緒に自殺したのだというニュアンスを強く臭わせいた。こういう 逆説的なファンタジーを用いた表現の使い方が、巧かったように思う。 Mamlakat とその父と兄による父親探しのドタバタ騒ぎに、映画のかなりは割かれて いるわけだけれども、その最中に演劇の舞台や映画の撮影をぶち壊すシーンが、 かなり僕のツボを突いてくれて、最も笑えたところだった。ちょっとしたエピソード としてしか使われていなかった Mamlakat が所属している収穫ダンサーズの 衣装や踊りも面白く、もっと狂言回し的に活用して欲しかったように思う。 音楽は Tadjikistan では有名だという Daler Nasarov という人が手掛けており、 中央アジア風を思わせる音楽なだけに、この手のダンス曲をもっと巧く使って 欲しかったように思う。 Mamlakat についていえばたいして救いの無い物語なだけに、こういったファンタジー 的な、もしくは、喜劇的な演出に救われる気になる映画ではあるのだけど、 中央アジアの風景を捉える画面も綺麗だし、なにより、Mamlakat 演じる主演女優 Chulpan Khamatova か可愛いのも、見ていて救われたかもしれない。非寛容な 古い社会と闘う女性という感じではなく、時にヌケてて時にしたたかになる コミカルなキャラクターに合っていたように思う。 大変に良かった、というほどではないけれども、ちょっと苦味を忍ばせた喜劇と いう感じの仕上がりの佳作だと思う。 2000/8/20 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕