『アイスリンク』 _La Patinoire_ - France / Belgium, 1999, color, 80min. - Written and Directed by Jean-Philippe Toussaint. - Tom Novembre (director), Mireille Perrier (assistant), Dolores Chaplin (actress), Marie-France Pisier (producer), Jean-Pierre Cassel (ice rink's manager), Gilbert Melk (stand in of the actress), Bruce Campbell (actor), etc. ベルギー出身ながらフランスで活動する小説家 Jean-Philippe Toussaint の 監督した3本目の映画は、変なテンポのドタバタ映画。今までの2本 (『ムッシュー』 (_Monsieur_, 1990)、『カメラ』 (_La Sevillane_, 1992)) よりも、現実から退行しがちな登場人物のキャラクターに追うところが減り、 動きそのものの可笑しさを使った作品になっているのは、前2作が小説を映画化 したのではなく、オリジナル脚本に基づいた映画だということもあるように思う。 アイスリンク上での映画撮影、という設定も、普段はスケートをしない人が 氷上に立ったときのぎこちない動きの可笑しさだけのために設定された感もある。 およそ辣腕とはいえない監督やスタッフたちによるぎこちない映画の制作も、 話そのものよりも、氷上でのぎこちない動きによって表現されている感もある。 氷上のアクシデントを中心に、笑えるシーンは多く、楽しめた映画だった。 といっても、ギャグやそれを表現する映画技法自体はかなりベタなものだ。 日本では先だった刊行された脚本を予め読んでいたこともあり、展開も読める ということもあり。意外性とか新規性というよりも、予想は付くけれどもその 語り口を楽しむ、という感じだ。僕はかなりツボを突かれたが (アイスリンク 上はもちろん、撮影終了パーティの展開とか)、テンポの良い刺激の強いギャグの 方が好き、という人には退屈する映画かもしれない。画面がとても美しい、 というところも特に無いし、映画としては、凡庸かなあ、と思うところもある。 ジャン=フィリップ・トゥーサン 『アイスリンク』 (集英社, ISBN4-08-773319-X, 1999) - 野崎 歓=訳; Jean-Philippe Toussaint, _La Patinoire_, 1999. この映画の脚本が、日本では映画公開に先立って翻訳が刊行されている。 刊行にあたって、読むことを想定して手を入れているようなので、映画とは 若干異なるわけだけれど。 1999年10月に出版されてすぐに買って読んでいたのだけれども。この小説を 読んだときの印象も、映画を観た印象に近かった。それは、ヌーヴォー・ロマンと 比べられたような形式主義的な色が濃かった初期の小説 ― 特に『ムッシュー』 (集英社; Monsieur, 1989) ― から遠くに来たものだ、というものなのだけれど。 もちろん、小説の方も、30分くらいで読める軽いコメディで、それはそれで、 楽しんで読めたけれども。ノベライズではなく脚本という形式を残しているのは 良いかもしれない。スチルを多用したシネロマンという形式ではなかったのは、 少々残念だったけれども。 しかし、それでも巻頭にカラーのスチル写真が雰囲気を伝えるように収録されており、 映画のパンフレットよりも資料的に参考になるところが多いようにも思う。 というか、7"シングルを意識したようなパッケージがされたパンフレットは、 内容が貧弱過ぎるようにも思う。金をかけるところを間違えているように思う。 2000/9/10 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕