毎年秋に行われている『art-Link 上野-谷中』も4年目。一応、毎年通っている けれども、最も面白かったのは、第一回だったかもしれない。いや、その前年に ひっそり開催されていた『谷中プロジェクト』かもしれない、と思ってしまった。 今年の展示に感じた傾向は、"work in progress" というか、制作中を感じ させるものだろうか。良く言えば、制作のプロセス自体を見せる、というものだが、 悪く言えばコンセプトが物作りに至っていない、とでもいうところか。 磯崎 道佳 東京芸術大学大学美術館陳列館 2000/10/14, 14:00- 例えば、磯崎のパフォーマンスは、まさに公開制作とでもいうもので、それも、 一方的に制作するというより、観客参加のワークショップに近いものだ。 今回の場合、フォーチューン・クッキーを作る、というものだったが。今一つ、 観客の参加度が低いところが惜しいところか。フォーチューン・クッキーに 折り込むメッセージを書いてもらうというのがメインになってしまい、 実際に焼きあがったクッキーを折るところまで、参加者を巻き込むところが できなかったのが、惜しい。メッセージを書くというのは、いささか コンセプチャルで、手足を動かさせるというのとは違うからだ。複数の作業が 可能な設備を使って、フォーチューン・クッキー焼きワークショップとかいう 感じにできたら、面白かったように思うのだが。 物作りの楽しみを共有する、という点では、単純な作業で良いから、最低でも 30分くらい観客に作業させることができるようなものだと良いのだろうか、と、 以前に、作業を手伝ったことを思い出しながら考えてしまった。 『スキマ・プロジェクト』 Command-N/□, 千代田区外神田1-7-1街づくりハウス"アキバ"内 (秋葉原), tel.03-5297-3506, http://webs.to/command-N/ 2000/10/7-22 (10/16休), 12:00-19:00. 街のスキマへのインスタレーション、スキマを使ったパフォーマンスなどの作品を 集めた街中アート・イヴェントのプロジェクト。といっても、実際の展示をして いるのではなく、そのプロジェクトのプレゼンテーションの展示。 といっても、具体的に制作中の物が見えないせいか、プロジェクトの制作作業 そのものを観せている、というよりも、社会的なアート・プロジェクトの ドキュメントの展示に近い。というか、それを事後的にではなく同時的に制作 しているという感じだろうか。そして、残念なことには、展示自体に、社会的な アート・プロジェクトのドキュメントの展示にありがちなつまらなさ、つまり、 その展示形式を取る必然性の無さからくるつまらなさがあるように感じた。 増山 士郎 『ITAZURART 2000』 SCAI The Bathhouse, 台東区谷中6-1-23柏湯跡, tel.03-3821-1144. 10/7,8,14,15,21,22; 12:00-19:00. この『スキマ・プロジェクト』参加作品で、実際に展示をしているところを 観ることが出来たのは、この作品だけなのだが。柏湯跡の勝手口に監視カメラを 設置して、作家のインストラクションに従ってノゾキとかするとフラッシュが 焚かれてその様子がビデオに撮られてしまうというもの。そのビデオを随時 編集してのビデオ作品の「制作中」という面があって、その編集中のビデオ モニタも観せてもらえたり。ちょっと他愛無いかなあ、とも思ったけれども。 それなりに茶目っ気もあるし、コンセプト・シート止まりより、とりあえず 手を動かしている感じは、観ていても楽しいとは思った。 宗政 浩二 『ゲムシェン ゼ エムルパ』 アートフォーラム谷中, 台東区谷中4-6-7, tel.03-3824-0804, http://plaza8.mbn.or.jp/~yanaka/ . 2000/10/7-10/22, 11:00-19:00. 「ゲムシェン」というのは、作家の創作による架空の競技、ということだが、 いわゆるサーカス、大道芸におけるホイール芸との違いが、僕には理解できな かった。ホイール芸のホイールは金属の輪だが、これは木製という程度。 展示は、木製のホイールが展示されており、アクロバチックな動きは パラパラ・マンガで想像して欲しいというもののよう。こういうコンセプト 止まりという感じではなく、下手でもいいからある程度のパフォーマンスを する方が面白いように思うのだけれど…。 現代美術の展覧会を観ていると、「○○するともっと面白いのに」と思うこと が多いし、そういうことをこういうレヴューに書くこともある。しかし、 それでも作家が凄いなぁ、というのは、それを実際の物にする力、技を持って いることだと思っている。この間には大きな落差があると思うし、今回の展示に 感じた "work in progress" 的な傾向を持つ作品は、どうも、作品がどんどん 「面白いのに」と思う側に近づいてきてしまっている、物作りにあまり至らなく なってきて、落差が小さくなってしまっているような気がするのだ。全てが つまらないというわけじゃないけれども、僕がつまらなく感じた点は、 そういう点だったように思う。 2000/10/15 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕