『ポスター芸術の革命 ― ロシア・アヴァンギャルド展 ― ステンベルク兄弟を中心に』 _The Stenberg Brothers And Russian Avant-Garde by The Ruki Matsumoto Collection_ 東京都庭園美術館, 港区白金台5-21-9 (目黒,白金台), tel.03-3443-0201, http://www.teien-art-museum.ne.jp/ . 2001/2/10-4/1 (2/13,28,3/14,28休), 10:00-18:00. - Vladimir & Georgii Stenberg, Alexandre Rodchenko, Vladimir Mayakovsky, El Lissitzky, Gustav Klutsis, etc 1997年に MoMA, NY で開催され、世界を巡回した展覧会 _Stenberg Brothers - Constructing A Revolution In Soviet Design_ が、日本に巡回してきている。 この展覧会は、日本人コレクター 松本 瑠樹 のコレクションに基づくもので、 日本での開催にあたって、構成を新たにしている。MoMA での展覧会は観てないが、 カタログ (MoMA / Themes & Hudson / Abrams, ISBN0-87070-051-0, 1997) は 既に持っていた。それと比較すると、Stenberg Brothers のポスター以外の仕事の 部分を削り、Stenberg Brothers 以外の Russian Avant-Garde のポスターや グラフィック・デザインの仕事を大幅に加えた、という構成になっている。 MoMA の展覧会のカタログの他、Jelena Barchatowa (ed.), _Russischer Konstruktivismus Plakatkunst_ (Weingarten, ISBN3-8170-2024-4, 1993) や、 Susan Pack, _Film Posters of the Russian Avant-Garde_ (Taschen, ISBN3-8228-8928-8, 1995) といった、ロシア・アヴァンギャルドのポスターの 画集を既に持っており、僕にとっては、正直に言ってそれほど目新しいポスターに 出会えたわけではなかった。ただ、実物、というか、ポスターの大きさで観る のはまた違う。特に、Stenberg Bros. による『十月』 (Sergej Eisenstein (dir.), _Oktyabr_, 1927) のポスターの大きさは迫力満点。この展覧会のハイライトの 一つだろう。モガが2人を3回反復して6人並ぶ様子にした所も洒落た、僕が最も 好きな Stenberg Bros. のポスターの一つ、『隠れ家を探す六人の娘たち』 (Hans Behrend (dir.), _Six Girls Seeking Shelter_, 1928) のポスターも 実物大で観られたし。Gustav Klutsis の _Moscow Spartakiada_ (1928) は、 ソ連の国体のポストカードなのだが、画集で見ていたときはポストカードだと 気付いておらず、実物を見て気付いたその小ささも以外だった。それも、 リトグラフではなく活版印刷だったので、質感も想像していたのと全然違ったし。 と、実物を見る楽しみもあったのは確かだ。 日本で追加された分で良かったのは、Vladimir Mayakovsky, _Rosta Window Posters_ (1919-21)。Mayakovsky が作った一連のニュース・ポスターなのだが、 26枚もまとめて観られるというのは、なかなか無いだろう。この手の展覧会では お約束のようにある名作、Vladimir Mayakovsky & El Lissitzky, _For The Voice_ (1923) もやはり展示されていたけど。閉じて置いてあったので、あまり意味が 無いような気もした。 それから、タイポグラフィだけ使った Mayerhold Theater のポスターに良いものが 多いのも発見だった。ここらは『美術と演劇 ロシア・アヴァンギャルドと舞台芸術 1900-1930』 (横浜美術館, 1998) でも出ていなかったし。 それまでの絵本の挿絵のようなものから比べれば遥かに斬新だっただろう、と思う、 彼らが使ったタイポグラフィ、コラージュ、フォトモンタージュといった手法も、 現在のグラフィックデザインではごく一般的になっているけれども。それでも、 大胆なクロースアップや極端な視線、単純だが思いきった色使いなどが生む ダイナミックさは、逆に、今のポスターではなかなか無いように思うし、充分に 今でも楽しめるものではないかと思う。 Russia Avant-Garde のポスターというと、(僕はそれが面白いと思うのだけれども) 政治的・社会的な題材のものが多く、そこでヒイてしまう人が多いような気も するので、映画のポスターを中心にしたこの展覧会は、親しみ易いようにも思う。 特に Stenberg Bros. の作品は色使いも鮮やかで、人物などの描き込みも多く、 Art Deco のポスターにも近い親しみ易さがあるように思う。それから、今まで ロシア・アヴァンギャルドのポスター集というと洋書、という状態だったので、 この展覧会のカタログは洋書に抵抗がある人にお薦めだろう。普通の書籍として 出版して、もっと入手が容易になるようにして欲しかったところだ。(最も充実して いるのは、Jelena Barchatowa (ed.), _Russischer Konstruktivismus Plakatkunst_ (Weingarten, ISBN3-8170-2024-4, 1993) だと思うが。) ところで、1925年のパリのアールデコ博で金賞を取った Stenberg Bors. の作品が、 アールデコ様式の洋館である旧朝香宮邸の東京都庭園美術館にどのくらい合って いるのか、というのも、観る一つの楽しみだったのだが。これについては、ちょっと 違うかなぁ、と思うところも。去年にこの美術館であったイタリア未来派の デザイン展『デペロの未来派芸術展 ― 20世紀イタリア・デザインの源流』の ようには、ぴったりハマってはいなかった。 2001/2/11 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕