『ギフト・オブ・ホープ』 東京都現代美術館, 江東区三好4-1-1 (木場), tel.03-5245-4111. http://www.tef.or.jp/mot/ 2000/12/16-2001/4/8 (月休), 10:00-17:30 (金10:00-20:30) - Beat Streuli, ヤノベケンジ, 大岩 オスカール 幸男, Navin Rawanchaikul, 八谷 和彦, Kcho, 山出 淳也, Surasi Kusoluwong, Lee Jin Kyung, Lee Mingwei, 「時の蘇生」柿の木プロジェクト実行委員会, 島袋 道浩. 開館以来、日本出身の作家を集めて毎年開催していた「MOT アニュアル」の 拡大版とでもいう展覧会。「MOT アニュアル」のときもそうだったのだが、 既に何回か観たことがある作家がほとんどということもあり、それほど 新鮮味は無い。ワークショップというか、ワーク・イン・ブログレスとでも いう作品が多い、という意味でここ数年の (少なくとも日本国内での) 流行を 今まで以上に反映させたという感じもある。そして、この展覧会で最も面白く 感じた展示は、そういうものとはほとんど接点の無い作風の Beat Streuli の 作品だった。 Beat Streuli の作品は、1999年2月の都内三箇所を使った個展で初めて観たの だが、スチルの写真はファッション写真っぽさ以上のものはほとんど無かった のだけれど、複数のスライドを使ってフェードイン/アウトさせる投影をする NADiff の展示は面白いと思っていた。今回はそのスライド投影作品の拡大版。 1つだったスクリーンは横に並んだ3つのスクリーンになり、それぞれに、 3台、2台、3台のスライド投影機を使って、フェードイン/アウトさせたり、 ブラックアウトさせたり、と、望遠レンズを使って捉えた街中の風景を投影 していくもの。全体から受けるファッション写真っぽい印象が減ったのは、 人物以外を捉えたものが増えたからのように思うが。その一方で、モーフィング するようなオーバーラップのさせ方も減っており、時間的なモンタージュに より物語るような感じは増してしまったように感じた。しかし、前回観たとき ほどの現状肯定的な印象は減って、道に面したカフェに座って自然に街中 ウォッチングしているような印象になった。これは、投影面が横長になって 投影の中心が分散したこともあるように思う。それも良かった。拡大版と いっても、B.G.M. を付けようとかビデオ編集しようとかそういう方向に 進んでおらず、あくまで、スライド投影の効果に拘っているのも良い。2年前 よりずっと良くなったと、楽しめた作品だった。 以前から話を聞いていてイタそうだと感じて避けていた感もある 八谷 和彦 の 「エアボード」 だが、ついに実物を観てしまった。「空気に乗るスケボー」と いうか一人乗りのホバークラフトのようなものを作ろう、というプロジェクト なのだが。ジェットエンジンを使っている、と聞いたときに、かなりハズして いそう、と思ったからなのだが。一人をホバリングで浮かせるくらいなら、 ちょっとしたコンプレッサー程度で十分だし、実際、掃除機を使った一人乗り ホバークラフト作りは科学工作教室の定番だ。もっと製品に近いものならば、 一人乗りホバークラフト (それも名前は "Airboard" 。http://www.airboard.com.au ) が、シドニーオリンピックの開会式で大活躍していたのも記憶に新しいだろう。 それで何でこんな物を作り出したんだろう、という気もするし。そもそも、一人乗り ホバークラフト様の乗り物の技術的な実現という面を考えたら、ジェットエンジンを 使うというのはかなりスジが悪いように思う。それで本気に作っているとしたら、 かなりイタいように僕には思うのだ。雑誌やTVでの取り上げられ方では本気で 作ってそうな印象が強いが、もしかしたら、ジェットエンジンを使っているのは、 一種の無茶さというか、馬鹿馬鹿しさを狙っているのかなぁ、と思っていた ところもあった。今回、実際の展示を観た感じでも、馬鹿馬鹿しさを狙ったという 感じではなかったが。ジェットエンジンの持つゴツさや音の迫力、カッコよさそう、 といったイメージを単に先行させているだけ、という感じだった。本当の物作りを 楽しんでいるというよりも、技術の持つイメージと戯れている、という感じだろうか。 そういうイメージと戯れるのもそれはそれで一興だとは思うし、例えば、大して 実用的ではない電子ガジェットを使ったりするというのは、そういう面もあると思う。 けれども、大袈裟なプロジェクトを立ち上げてその記録を作って展示するとなると、 それはちょっと自己陶酔入っているようで気持ち悪いと、僕は感じてしまう。 確かに、エアボードのプロジェクトにしても、僕のような人には気付かないような 他の何かのコンセプトがあるのかもしれないけれども、例えば、科学工作教室での ホバークラフト作りワークショップにようなものに何が欠けていると感じていて、 エアボード公開製作はそこのどこを狙っているのか、みたいな問題意識が伝わって くるような展示になっていない、というのも確かだ。むしろ、雑然とアイテムを 並べただけという感じで、何かやっているらしいという感じを出すだけの展示だ。 これは、この展覧会の多くの観客参加型のプロジェクト的な作品にも感じること なのだが。例えば、原爆や放射能の問題を扱う方法として、従来の展示、報道や 社会運動のやりかたでは何が伝わっていなくて、この作品によって何を解決しよう としているのかという問題意識があまり見えない、単に作家が美術の文脈に属して おり美術の文脈では無かったから作品としてやっている、という感じのものが 多いように感じてしまうのだ。そして、僕がここ最近数年の社会プロジェクト的な 美術作品をつまらなく感じているのは、そういったところなのだが。 『ex-』 資生堂ギャラリー, 中央区銀座8-8-3東京銀座資生堂ビルB1 (銀座), 03-3572-3901. 2001/3/1-4/15 (会期中無休), 11:00-19:00 (日祝11:00-18:00) - ヤノベケンジ, Kcho さて、『ギフト・オブ・ホープ』と連携したような展覧会が、ビルの立替工事を 終えて再開した 資生堂ギャラリー で開催されている。プロジェクト的な面は 強く感じないだけ、こちらの方が楽しめるような気もする。 以前はビルの上の方にあったわけだが、今度は地下。もともと窓を使うような ことは稀だったのでそれほど関係ないとは思うが、エレベータ無しで行けるという 点では、入りやすくなったように思う。 2001/4/8 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕