ジョルジュ・ルース 『幾何学的形態の中の緊張』 Georges Rousse, _La Tension D'Esprit Dans Les Figures Geometriques_ 東京都庭園美術館, 東京都港区白金台5-12-9 (白金台), tel.03-3443-0201, http://www.teien-art-museum.or.jp/ . 2001/4/7-6/3 (4/11,25,5/9,23休), 10:00-18:00. George Rousse は1980年代に入って活動が注目されるようになったフランスの 現代美術作家。その回顧展とでもいうもの。 取り壊しが予定されている建物の内部に絵を描くというものなのだが、平坦な 壁に描くのではなく、入り組んだ壁、床、天井からなる部屋や、階段の吹きぬけ などに、ある一点から観たときのみその形がちゃんと見えるように描く、と いうものである。 最初のうちは、人物像を描いており、その一方で描かれる場所は壁と床の折れ 曲がりを使う程度なのだが。だんだんと、描かれるモチーフが抽象的なものと なる一方、描かれる場所は階段の吹きぬけなど、面が複雑に組み合わさった場所に なっていくのが面白かった。その表現が面白く感じられる最低条件に向かって、 ミニマルな方向に突き進んでいる。描かれるモチーフが円や正方形のような ミニマルな形に行きついたところで、脱ミニマルという感じで、正方形に切ら れた地図などを用い始めるし。その一方で、壁面に詩のようなものを書いた ポラロイドの作品は、面白いと思わなかったが。 合成が容易なデジタル写真が普及している現在、ちゃんと見える位置から撮ら れた写真のみの展示というのは、いまいちリアルさというか、面白みに欠ける ように思う。図形が崩れて見える位置からの写真なども併置すると、面白かった のではないかと、思うところも。 写真作品としても、静的な視点で捉えられた建築物の幾何的な感じと、ちょっと 不自然な色合いと幾何的な形の組合せが、綺麗で面白いなものが多いのだが。 チバクロームでプリントしたものに比べて、シルクスクリーンでプリントした 大判のものが、粒子の粗さが目立って、ちょっと近くから観たときに興醒め だったように思う。 基本的に写真による展示だったのだが、一箇所、二階のベランダを使って、 作品を作りこんでいた。もちろん、アールデコの洋館の壁や床に直接描くの ではなく、内部に作品を描き込む壁を新たに仮設した上で、その上に広島の 古地図を描いていた。白黒でほどんど壁いっぱいに地図を投影していたので、 いまいち視点による変化に欠けていたように感じたのが、少々残念だった。 それなりに楽しめたけれども、東京都庭園美術館がその展示場所として適して いたかというと、そうでもないように感じた。不適切だったとまでは思わない けれども。写真だけなら普通のギャラリー・美術館でも良いように思うし、 作品を作りこむなら、がらんとした古い倉庫のような空間だったりするほうが 面白いように思うだけに。『デペロの未来派芸術展 ― 20世紀イタリア・ デザインの源流』や『ポスター芸術の革命 ― ロシア・アヴァンギャルド展 ― ステンベルク兄弟を中心に』のような企画の方が、この美術館に合って いるように思ってしまった。 2001/5/13 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕