Gerhard Richter, _Atlas_ 川村記念美術館, 佐倉市坂戸631, tel.043-498-2131, http://www.dic.co.jp/museum/ . 2001/3/31-5/27 (月火休;4/30開), 9:30-17:00. Germany の作家 Gerhald Richter が作家活動を始めた頃といえる1962年から 制作を始めて、現在も増え続けているという、作品の元に使うべく収集した スクラップ、写真や展示プランなどのスケッチなどを集めた作品 _Atlas_ を 展示する展覧会。ちなみに、それ以外に10点の作品が展示されている。 Gerhard Richter, _Editionen 1967-1991_ (フジテレビギャラリー, 1996) と いう回顧展とでもいう展覧会を以前に観たことがあったこともあり、そのタネ 明かし、という感じで楽しめた展覧会だった。が、彼の作品をほとんど観た ことが無い人が楽しむには、10点の作品はいささか少な過ぎるような気もする。 写真絵画と抽象絵画を組合せたような作品は無かったし。 観ていて面白かったのは、盛られた油絵の具のクロースアップ写真を集めた パネルとヨーロッパの町を捉えた航空写真やを捉えたパネルを並置したもの。 絵の具の盛り上がりがぐにゃっとうねるような感じが、街並みのぐにゃっと うねった感じと、似ていたからなのだが。このような、写真を抽象的な色形の 模様として扱う、というのが彼の作品の面白さだ。もちろん、抽象性を増す ために、油絵として起こすときに、ピンぼけ的な処理を加えたりするわけだが。 といっても、そういった写真の扱いは彼の作品だけに特徴的なわけではないと 思うけれども。1920年代の Avant-Garde な人たちが撮影した写真は、白黒 とはいえ、このような抽象性に着目したものが多かったし。日本の写真家なら 大辻 清司 〜 畠山 直哉 あたりがすぐに連想される。しかし、この展覧会で Richter の野原や山、空、海の風景を撮影した写真を観ていて僕が連想したのは、 ECM レーベルのレコードジャケットに用いられる写真。それらも、抽象性を強調 されたものがほとんどだし、それは、Adrian Shaughnessy (ed.), _Sampler - Contemporary Music Graphics_ (Universe, ISBN 0-7893-0258-6, 1999) で取り上げられたような、ECM以降の音楽のグラフィック・デザインの大きな 流れになっている。僕が Richter を知ったのは、Glenn Branca, _Symphony No.1_ (99 / ROIR, 1981) や Sonic Youth, _Daydream Nation_ (Blast First, 1888) といったレコードのジャケットを通してだったのだけど。Richter の具象的な 写真の抽象性を強調させるようなやり方が、グラフィックデザイン的に親和性が 高かったからこうしてレコードジャケットに用いられたのかな、と思った。 もちろん、Richter の場合は、写真を油絵として起こしているわけで、 そこに、具象絵画から抽象絵画へ突き進んだ近代絵画の流れへの言及というか、 そういうことを思い出させるという面白さもあるとは思うけれども。 もう一つ面白かったのは、_48 Portraits_ (1972/98)。百科事典に載っている 肖像写真を顔の向きに着目して、中央に視線が集まるかのように横12、縦4に 行列状に配置したもの。こういう同じような構図の写真を並べることで抽象性が 強調されるのは、例えば Becher schule な作家の写真作品と似ているわけ だけれども。もちろん、絵として起こされて、オリジナルより微妙に抽象性が 強調されているのも面白いのだが。この肖像写真を使った作品の展示プランの パース図スケッチを見ると、視線が波打つように一列に並べるようなものが 多く検討されている。他の撮りためた風景写真を行列状に並べたものや、 それに基づく作品の展示プランのパース図にしても、地平線の位置をそろえるなど、 横の関係が強く意識されていたように感じた。しかし、その一方で、縦方向の 関係性は弱いか、無視されているような感じもあった。例えば、_48 Portraits_ にしても、上向き加減の顔を下に、下向き加減の顔を上に、といったことは 行われていなかった。このような配列に関して、線形の関係性は強く意識されて いる割に、平面的な関係性を感じさせないあたりが、少々気になってしまった。 2001/5/20 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕