Vladimir Mayakovsky, El Lissizky, Patricia Railing (ed.) _For The Voice_ (The MIT Press, ISBN0-262-13377-6, 2000, 3 volume box set) - Volume 1)Vladimir Mayakovsky, El Lizzitzky, _For The Voice_ (1923) (reprint of the original Russian edition). Volume 2)Peter France (translation), Martha Scotford (visual translation). Volume 3)Patricia Railing (editor), _Voices Of Revolution - Collectid Essays_ 1920年代の Modern / Avant-Garde なデザインの本で必ずのように言及され 展覧会でよく出展される、Russian Avant-Garde なグラフィックデザインの名作の、 復刻版が出ている。それも、三巻からなる箱入りの本として。 _For The Voice_ は、1920年代の Russian Avant-Garde に最も影響力を持っていた 詩人 Mayakovsky の詩を、やはり構成主義的なデザインを得意とした Lissitzy が 大胆なタイポグラフィーで組んだ「視覚詩」だ。色使いは白地に黒赤とミニマル だが、書体や字の大きさ、それになんといってもレイアウトを比較的自由に組んで いるのが特徴。イラストは用いられていないのに、絵本に近いし上がりに なっている。 今までも、展覧会などで全てのページをではないが本を観たことがあった。 しかし、版組みの面白さを楽しむことはあっても、それと詩の内容を結びつけて 楽しむということはなかった。キリル文字の音価がわかれば、ロシア語を知らなく ても、固有名詞や英語や仏語の由来の外来語などは判るので、映画のポスター 程度であれば何が書かれているのか判る。しかし、さすがに、詩はほとんど 判らなかった。 今回出版されたボックスセットの第二巻は、第一巻のオリジナルの「英訳」と なっている。単に詩の部分を英語に訳しただけでなく、そのラテン文字の綴りで、 オリジナルのタイポグラフィに似せて、タイポグラフィを組んでいる。 少なくとも僕にとっては、英語であれば、かなり容易に意味が取れる。 最初のページの「帆船」は「左」の風に乗っていたのか、とか、そういうことが 判ると、同じようなタイポグラフィでも見え方がかなり異なってくる。 確かに、厳密に言えばロシア語・キリル文字の版と英語・ラテン文字の版は全く 同じものではない。実際、見比べればラテン文字の方がすっきりして丸い印象を 受ける。それでも、こうして対訳という形で組で出版することによって、 オリジナルの「視覚詩」をより楽しむ手立てに充分になっていると思う。 その一方で、このような翻訳版をなんとか作ることができたのも、ロシア語と 英語の言語体系が近かったこと、キリル文字とラテン文字の文字体系が近かった ことがあると思う。例えば、日本語、かな漢字への翻訳は限りなく不可能の ようにも思われるのだ。 このボックスセットの三巻目は最も厚く、エッセー集になっている。本は三章 からなっている。まだかるく流し読みしただけだが、軽く中身を紹介したい。 第一章は _For The Voice_ についてで、翻訳者のノートなどがある。特に 「ビジュアル翻訳」の方針の話は、面白そうであった。第二章は Vladimir Mayakovsky についてで、Mayakovsky 自身のエッセーと、研究者による長めの エッセーからなる。Mayakovsky は、共産党や革命との関係が強調されがちの ように思うのだけれど、ここでは美的にモダニスト的な面に焦点を当てたものに なっている。第三章が最も長く、Lissitzky に関するもので、やはり自身による エッセーと、何編かの研究者からのエッセーからなっている。こちらは、 政治性にも言及があったりするが。Steven A. Mansbach, "A Univeral Voice In Russian Berlin" のような、当時の Avant-Garde のネットワークというか 国際性に焦点を当てたエッセーがあるのが、1980年代以降の Russian Avant-Garde 再評価の位置を感じさせるようにも思う。 第三巻の評価は保留するとして、グラフィック・デザインに興味がある人なら、 第一巻と第二巻を眺めるだけでも充分に楽しめる本になっていると思う。もちろん 1920年代の Avant-Garde が好きな人ならば必携といっていい本ではないだろうか。 2001/6/10 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕