『テルミン』 _Theremin - A Electronic Odyssey_ - directed by Steven E. Martin. 1920年に世界初の電子楽器 Theremin を発明した ソ連の技術者 Leon Theremin に 関するドキュメンタリー映画。Theremin については以前からそれなりに知って いたが。以前に買った Clara Rockmore の演奏も収録したボックスセット Burt Hopkin, _Gravikords, Whirlies & Pyrophones --- Experimental Musical Instruments_ (Ellipsis Arts, CD3530 / ISBN1-55961382-3, 1996, CD+Book) の本での記述を 読み直して、Lenin の前で演奏した話や、Stalin 時代の仕事について再確認して しまったほど。映画で知るところもあった、興味深い映画だった。 映画を観ていて、今まで自分が持っていたイメージ以上に 1920年代的 な背景を 背負って登場した楽器だと感じた。例えば、Terpistone 奏者として接触のあった 黒人バレエ団 (それも Stravinsky などを演じていたという) や、その女性 ダンサーとの結婚に関する挿話にしても、映画で強調されていた当時はタブー だったということよりも、むしろ、同時代の Paris の Avant-Garde な人たちが Ballet Russe や Josephine Baker に夢中になっていた、という話に重なるような 挿話だったと思う。 そもそも、楽器 Theremin のアイデアの契機になったラジオも1920年代にその普及と 実験 ("Radio Grotesque" とか) が頂点に達したメディアだったわけだし。 Theremin の同時代には、Italian Futurist の Luige Russolo が Intonarumori などの電気的なノイズ楽器を作り、Theremin と交流のあった France の音楽家・ ラジオ技師 Maurice Martenot が、Theremin と同じ原理を用いて Ondes Martenot を 作ったり。Theremin もそんな楽器の一つだった。そういう同時代に作られた楽器に ついて全く触れられなかったのは残念。 というわけで、1920年代にあのような楽器が出てきた背景にもう少し視野を広げて Theremin を紹介すれば、 面白かったんじゃないか、と思うところもあった。 ま、そういう時代精神の一面とでもいうものを捉えるドキュメンタリーというよりも、 Leon Theremin という人間を紹介することが目的のドキュメンタリーなのだろうから、 こんなものかな、とは思ったけれども。 2001/08/27 (2001/08/24) 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕