東京バレエ団 with Sylvie Guillem 東京文化会館 (上野) 2001/11/17, 18:30-20:45 コンテンポラリーなダンスの舞台はそれなりに見ているのだが、正直に言って バレエについては疎い。そんなこともあって、一度ちゃんと観ておけば、後々、 ダンス観賞の参考になるだろう、と行ってみた。もちろん、有名な女性バレリーナ Sylvie Guillem をフィーチャーして、現代物の演目が多い、ということもあった のだが。正直に言って退屈した所もあったし、バレエについてそれほど良く わかったという気もしなかったけれども、面白かったり気になったりした演目も あったのでそれについてコメント。 _WWW: Woman With Water_ (2001) - Choreography: Mats Ek. Music: Flaskkvartteten. - Sylvie Guillem. 最も気に入ったのは、1993年の映像作品の舞台化という、Guillem のソロ。 舞台の右手にテーブルが置かれ、最初はその机に沿うように小さく踊っている のだけれども、給仕が置いていったテーブルの上のグラス入りの水を口にして、 机を離れて舞い出す瞬間がとても良かった。がらっと存在感というか重力が 変わるというか。その存在感だけで十分なような気がしただけに、ちょっと ストーリーを作り過ぎているようにも思ったけれども。 _Symphony In D_ (1976) - Choreography: Jiri Kylian. Music: Franz Joseph Hyden. - 吉岡 美佳, 森田 雅順, etc. こちらは、身体性というよりも、Michael Clark のダンスと共通するような感じで、 制度的な意味で興味深かったし、いささかぬるい気もしたけれど、ユーモアを感じる 扱いも気に入った作品だった。パンフレットによると「この作品はバレエについての 風刺であり、ダンスの世界に衝撃ならぬ”笑撃”を与えた。次から次へと繰り出される 奇妙な動き、滑稽な踊りは、客席を爆笑の渦に巻き込まないでおかれない。」とある。 実際に滑稽なのは、動きや踊りそのものではなく、その組み合わせだと、僕は思う のだが。ダンサーの衣装はエアロビクス競技のそれであり、踊りはバレエ的になったり エアロビクス的になったり。バレエ的、エアロビクス的な動きが対比されることに よって、それらの動きが奇妙で滑稽なものとして引出されていたと、僕は思う。 そういう意味で、パンフレットの解説に、エアロビクスという言葉が一言も出て こないのも不自然だと思うが。 しかし、この舞台を観ていて僕が思い出したのは、今年のワールドゲームズ (オリンピック競技になっていない競技種目で行われる4年おきの世界大会。) に先だって行われた、エアロビクス競技のルール変更だ。変更以前は、脚を前に 蹴り上げる動作において、脚を真っ直ぐ伸ばしたままである必要が無かった。 しかし、ルール改正によって、バレエや体操競技のように、脚を伸ばしたままの 方が良いとされたのだ。ルール改正以前、エアロビクス競技女子のトップ選手は 日本人選手だった。しかし、このルール改正でヨーロッパの選手の方が有利になった、 と言われていた。そして、実際に、この大会で、日本人選手はトップの座を失った。 バレエとエアロビクスはその動きにおいて異なる身体的な制度を持っているわけだが、 それは全く独立というわけでなく、それぞれ絡み合った社会的な背景を持っている。 ハイアートと見なされているバレエと、体操競技としてオリンピック競技にも なっていないエアロビクス。さらに、エアロビクス競技のルール変更に見られる ような政治。 初演が1976年ということを考えると、バレエとエアロビクスの組み合わせというのは、 鋭い視点を持っているように思うけれども。社会的な背景を考えると、単なる ユーモアて終わってしまっているようなぬるさも感じられる。バレエの枠内に収まって しまっているように思う。その結果、バレエの動きが正しく美しく、滑稽なのは エアロビクス的な動きである、と感じさせてしまいかねない。ま、そうだからこそ、 東京文化会館のようなハコで上演できるのかもしれないが。 しかし、音楽も、Hyden だけでなく、エアロビクスで使われるような音楽も使い、 その音楽でバレエを踊らせてみたり。エアロビクス競技の選手に客演させたり、 とかすると、もっと刺激的な仕上りになったのではないか、と、思ったりした。 もちろん、バレエという枠内で上演するのは難しくなるかもしれないけれども、 ちなみに、この作品の振付は Nederlands Dans Theater で知られる Jiri Kylian。 先日、NDT III による _Birth-Day_ (2001) も楽しんだし、気になっている作家だ。 _Bhakuti_ (1968) - Choreography: Maurice Bejart. - 井脇 幸江, 木村 和夫, etc _Bolero_ (1960) - Choreography: Maurice Bejart. - Sylvie Guillem, 飯田 宗孝, 森田 雅順, 木村 和夫, 後藤 晴雄, etc 特に Guillem をフィーチャーした _Bolero_ は今回の公演のハイライトといえる ものだと思うけれども、正直に言えば、この2作品を観て Bejart は好きでない かもしれない、と思ってしまった。単に肌が合わなかっただけかもしれないが、 _Bhakuti_ はオリエンタリズム的だと思ったし、_Bolero_ も身体的な力技で無理 やり持って行く、という印象を受けてしまった。近代的な表現のいやなところを 観てしまったような気さえした。 2001/11/18 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕