『ムッシュ・カステラの恋』 _Le Gout Des Autres_ - 2001 / France / 112 min. / color. - Directed by Agnes Jaoui. Written by Jean-Pierre Bacri & Agnes Jaoui. - Anne Alvaro (Clara), Jean-Pierre Bacri (Castella), Agnes Jaoui (Manie), etc. ミュージカル映画における歌の挿入の異化作用を巧く利用した 『恋するシャンソン』 (Alain Resnais, _On Connait La Chancon_, 1997) で脚本を手掛けていた Jaoui & Bacri が手掛けた映画、ということで、 期待して観に行ったこの映画。手法的というか形式的にはごく普通に 物語を運んでいたが、物語としては微笑ましい中にも棘があるという 感じで、なかなか面白かった。とても良かったわけじゃないけど、 軽く楽しめた映画だった。 邦題からすると恋愛映画のようだけれども、原題の意味は『他人の趣味』。 まさに、Bourdieu の言うところの "le gout" だ。趣味の良し悪しと 社会階級に関する悲喜劇映画だった。Castella 氏の恋は、むしろ、 趣味の良し悪しに関する摩擦を起こさせる契機に過ぎない。実際、 恋の方は成就できないし、最後には彼にとっても重要なことで無くなる。 主人公の Castella 氏は一代で真面目に苦労してなった中小企業の社長 だが、その身分に見合った「趣味の良さ」「教養」を身に付けてない、 とでもいった設定。大学を出たエリートを経営スタッフとして雇って いるが、言葉使いからして違い、それに対して引け目を感じたり。 (「政治家のような喋り方をするな」「そのように教育を受けましたから」 というやり取りも印象的。) その一方で、恋をした英語教師で女優の Clara やそのアーティスト仲間からは、最初のうちは下品で芸術を理解 できない人物と見なされている。 そんな Castella 氏が、Clara との恋に始まる一連の出来事を通して、 大学卒エリートのスタッフと対等に付き合い、芸術のパトロンもできる 社長になる (実際にそういう趣味の良さを身に付けたところまでは行かない けれども、その心構えができる)、という話と言ってしまえば、確かに それまで、という感もあるのだが。そんな Castella 氏を演じる Bacri の キャラクターのハマリ具合が良かった。これがこの映画を救っていた ように思う。 あとは、趣味の良し悪し、に関する絶妙な描き方。テレビのメロドラマに 見入る Castella 夫妻の会話、とか、Clara のアーティスト仲間との 演劇談義に付いていこうとしてバカにされる Castella 氏、とかの 細かいところが、セリフの端々が妙に可笑しかった。Castella 氏が 結局どうなったのか、というよりも、趣味の良し悪しに関する「政治」が 見え隠れする会話の端々に散りばめられた、いささか棘のある笑いを 楽しむ映画だったのだろうか、と思ってしまった。 2002/01/04 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕