『マルホランド・ドライブ』 _Mulholland Drive_ - 2001 / France/USA / 145 min. / color. - Directed and Written by David Lynch. - Justin Theroux (Adam Kesher), Naomi Watts (Betty Elms / Diane Selwyn), Laura Elena Harring (Rita / Camilla Rhodes), etc. 僕が Lynch の映画をちゃんと観ているのは最近の作品だけだが、Lynch としては 異色と言われる前作の _The Straight Story_ (1999) とは異なり、前々作の _Lost Highway_ (1997) と似た感じの映画だった。特に、Betty Elms と Rita の 世界と Diane Selwyn と Camilla Rhodes の世界という、2つの世界が交わるという 構造を持っているという点で。といっても、_The Straight Story_ のような映画も 好きだし、この _Muholland Drive_ も2時間余りの長さを退屈することなく、 むしろ最後までテンションの高いまま、楽しむことができたが。 実は、前半の Betty Elms の Rita の物語が進んでいる間、特に、オーディションの あたりまでは、むしろこのまま普通に謎解きの世界に進んでしまうのかな、と思って いたところもあるのだが。Betty と Rita が Diane のアパートを訪れて死体を 見たあたりからスイッチが入って、ぐんぐん Lynch な世界に突入していくという 感じの相転移を感じた。青い鍵と小箱という小道具もあって、比較的、二つの物語の 切り替わりやその関係は、_Lost Highway_ より判り易く提示されていたように感じた。 この映画を観ていて思ったのは、Lynch の映画って、少女マンガ的なのだろうか、 ということ。いずれも深く追っているわけでないので、ハズしている所もあるかも しれないが。少女マンガにおいては、不定形なコマの多用と多層化されたコマ構造 というのは、登場人物の主観に入り込んでの世界の表現のために用いられている。 Lynch の映像表現 (不自然なライティング、ぼやけたりぶれたりする画面、 オーバーラップや暗転による画面切り替え、登場人物の視点からの映像など) というのも、登場人物の主観に入り込んでの映像表現という点で、少女マンガに 似ているように感じたのだが。思えば、_The Straight Story_ というのも、老人の 行動の客観的なドキュメンタリーではなく、行動自体か主体の Alvin Straight の 主観的な視点から描かれていたわけだが。_Lost Highway_ や _Mulholland Drive_ のような作品の方が、そういう点が際立つのかしらん、と。 もちろん、主観を通した世界の表現というのは Lynch の映画だけの特徴ではなく、 どの映画も多かれ少なかれその要素はあるわけだが。Lynch のように、少々耽美の 入った映像として強調して表現している映像というと、Wong Kar-Wai (王 家衛) の映画なども多分にそうだと思うのだけれど。Wong の映画がどうも現実肯定的な ナルシズムのようなものを感じて好きになれないのに対して、Lynch の映画が むしろ楽しめてしまうのだけれど、その差異は何なんだろうか、と、いうのも 少々気になってしまった。自分でもよくわからないのだが。 ま、Lynch の映画には、謎解き的な観点からの楽しみもあるだろうけれども、 整合性とか気にせずに楽しめるものだとも思う。 2002/03/17 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕