『落穂拾い』 _Les Glaneurs et la Glaneuse_ - France / 2000 / 82 min. / color. - Directed by Agnes Varda. 1950年代末 (つまり Nouvelle Vague の頃) に活動を始めた映画監督 Varda の 最新作は、DV (Digital Video) の手持ちカメラを駆使したドキュメンタリー映画。 私的な表現であることと、社会性のバランスが絶妙で、とても楽しめた。 現在のフランス社会において「落穂拾い」をする人々に関するドキュメンタリー なのだが、その結果、失業者やホームレスといった人々を多く映し出すことになる。 大量消費社会において生み出される、実際は利用可能なのに廃棄される大量の ゴミの存在も、映像として映し出される。そういった物に対する問題意識も それなりに反映されてはいるけれども、それに限らない私的な好奇心、みたいな ものが映像化されている感じ。こういうドキュメンタリー的なビデオ作品は、 下手すると、作り手側の社会的な問題意識の単純さや、視野の狭さが気になって、 楽しめないことが多いのだが。この映画は、視野の広さというか、話題に余裕の ある感じが良かった。単に僕と Varda の波長が合っただけかもしれないし、 問題意識が温いって感じる人もいるかもしれないが。 経済的な理由だけでなく、さまざまな主義信条で「落穂拾い」をする人が扱われて いるし、さらに、落穂拾いとは直接関係ないような話に脱線することすらある。 この映画の撮影自体が、多くのメディアから抜け落ちてしまったことの「落穂拾い」 という感すらある。実際、それを仄めかすナレーションもあったので、意識的でも あったと思う。 DV の手持ちカメラ、ということで、観る前は手ブレで酔わないか心配だった のだが、そんなことはなし。Varda 自身による撮影は全体の15分程度で、あとは カメラマンが付いていたとのことで、ちょっと納得。 現代美術の文脈でも、社会的なプロジェクトに基づくビデオ作品がそれなりに あるわけだけど、この映画がやっていることはかなり近いと思う。そして、現代 美術の文脈のビデオ作品と比べても、この _Les Glaneurs et la Glaneuse_ は とても楽しめるレベルの作品だと思う。美術への言及も多いし (それも、古典的な 作品から現代美術、さらに、アウトサイダーアートまで) 、その方面の人にも 楽しめる、というか、参考になる映画ではないかと思うが…。 2002/03/21 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕