Museo Nacional Centro de Arte Reina Sofia _Painters In The Theater: Of The European Avant-Garde_ (Aldeasa, ISBN84-8003-204-9, 2000) 2000年に、Madrid, Spain の美術館で開催された20世紀初頭の欧州 Avant-Garde の 舞台美術に関する展覧会のカタログだ。カタログといっても、ハードカヴァーで 370頁の厚さの本だ。Spain の本といっても、テキストは英語。図版が豊富なので、 見ているだけで充分に楽しめる本だ。 本は4章からなり、各章は、Paris, France を拠点に活躍した2つのバレエ団 (Russian Ballet (Les Ballets Russes) と Swedish Ballet (Les Ballets Suedois))、 Italia の Futurist の舞台、Russia の構成主義の舞台、Germany の Berlin Dada と Bauhaus の舞台を取り上げている。欧州各地の主要な Avant-Garde を横断的に 取り上げており、共通点や差異を見るのも興味深い。 僕の不勉強もあると思うが、この本で知ったのが、1920-25 の間 Paris を拠点に 活動した Swedish Ballet。Diaghilev の Russian Ballet は有名だが、その ライバル的な存在で、Avant-Garde なアーティストとの協働、という点では Swedish Ballet の方が積極的だったという。この本の図版で見ることのできる Fernand Leger や Francis Picabia の舞台美術や衣装デッサンなど、Russian Ballet に比べても Avant-Garde な表現を徹底している感じで、どうやって実現 したんだろう、と思ってしまうようなものだ。この Swedish Ballet を知った だけでも、この本を読んだ甲斐があった。 Italian Futurist の舞台美術としては、Giacomo Balla、Fortunato Depero、 Enrico Prampolini の3人が取り上げられている。一番面白い Depero のものを 日本での回顧展『デペロの未来派芸術展 ― 20世紀イタリア・デザインの源流』 (庭園美術館, 2000) で観たことがあり、それほど新鮮というほどではなかった。 Russian Avant-Garde の舞台美術についても、Nina and Nikita D. Labanov-Rostovsky のコレクション展『美術と演劇 ロシア・アヴァンギャルドと舞台芸術 1900-1930』 (横浜美術館, 1998) の方が深いだろう。Kazimir Malevich、Vladimir Tatlin、 Alexandra Exter、Alexander Rodchanko、Barbara Stepanova、Lubov Popova、 El Lissizky と有名所をおさえているが。Tatlin による舞台衣装 (舞台装置ではない) のデッサンは、第三インターナショナル記念塔の印象が強い Tatlin なだけに、 少々意外だった。 1〜3章に比べて "Social Criticism and Utopian Experiments" はまとまりがなく、 寄せ集めの感は否めない。Berlin Dada の George Grosz による風刺劇の舞台 (Social Criticism) と、Bauhaus の構成主義的な舞台 (Utopian Experiments) が、Germany だから、という感じで共存させられている感もある。さらに、おまけの ように Piet Mondorian (Holland の De Stijl) のものも含められているし。 確かに、夫々一つの章を立てるほどの量ではないし、ある意味で、20世紀初頭の 欧州の Avant-Garde の多様性がこの章に凝縮されてはいる、とも言える。 "Social Criticism and Utopian Experiments" というタイトルも、Germany に 限らず当時の欧州 Avant-Garde に共通するものと言えるだろう。 Russia の舞台を扱った "The Constructivism In The Theater" の章のテキストに "Cabaret, Cinema, Circus" という節があるのだが、circus 関連に触れられている のはパペット芸だけだし、キャバレー芸やサーカスに関する図版が無いのが残念。 Blue Blouse のようなボードビル芸的な舞台は "Mechanical Man" の章で触れられて いるが、Vitaly Lazarenko のような道化に関する言及も無い。1920年代は、France でも Fratellini Bros. が Avant-Garde と協働していたわけだし、そういう舞台も 紹介して欲しかった。そういう点で、この本は、バレエや演劇といったハイアートの 流れを汲む舞台に偏っているとは思う。もちろん、この本が扱っている範囲だけ でも充分幅広いと思うけれど。 20世紀初頭の欧州 Avant-Garde を横断的に扱った展覧会カタログというと、 Ellen Lupton and Elaine Lustig Cohen, _Letters from the Avant-Garde_ (Princeton Architectural Press, ISBN 1-56898-052-3, 1996, Book) を思い出す。 この本は、Avant-Garde の理念がミニマルな形で表出する場としてのレターヘッド デザイン、を扱っていた。一方、_Painters In The Theater_ は、美術だけでなく、 音楽や建築、ファッションまで関係した当時の最も総合的な表現であった演劇を 題材に選んでいる、という点で、_Letter from the Avant-Garde_ と対称的な アプローチになっている。この2冊を比べて観ると、レターヘッドに Avant-Garde の 理念の共通点を、舞台美術に表現の多様性を観るようで、とても興味深い。 実際は、レターヘッドも多様なのだが。 この本で20世紀初頭の欧州 Avant-Garde の隠された一面を見ることができる、 という感じではないけれども、Avant-Garde の活動の幅広さを再確認できたと思う。 図版も多く、Avant-Garde が大好きな人なら、楽しめる本だろう。 2002/03/31 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕