金沢 健一 『はがねの変相 ― 金沢健一の仕事』 川崎市岡本太郎美術館, 川崎市多摩区枡形7-1-5 (向ヶ丘遊園), tel.044-900-9898, http://www.city.kanagawa.jp/mus/TARO/index.htm . 2002/2/27-4/7 (月休,3/22休), 9:30-17:00. 去年末のグループ展 『Life / Art '01』 (資生堂ギャラリー) の中では 良かった「音のかけら 9」 (1999) を出展していた 金沢 健一 の個展が、 川崎市の生田緑地にある、岡本太郎美術館で開催されていた。 「音のかけら」シリーズは、工業用の鉄板を不規則な形に切り出して、 それぞれの破片を鉄琴のように響くように浮かして床や台の上に置いた作品だ。 今回展示されていた 「音のかけら ― 取り出された542のかけら」 (2000) は、 「音のかけら 9」 (今回もエントランスに展示されていた) は、よりも 大きな規模の作品。不規則な鉄片が、原型の鉄板の形がわからないような形で、 大きな円形に並べられていた。それだけなら、UK のランドアートの作家 Richard Long や Andy Goldsworthy がギャラリーで作るインスタレーションと 似たような感じではあるが。紐付きの木球の、紐を持って木球を鉄片の上で 転がしていくと、カンカンカラカラとよい響きがして、単純に面白い。 といっても、「音のかけら 9」を知っていたこともあって、「音のかけら」 シリーズの観賞は、新鮮な体験ではなかったけれど。 それに比べて新鮮だったのが、「振動態」シリーズ。作品は、正方形や円形の 工業用鉄板を台の上に水平に固定した、テーブル状の形をしている。台と鉄板の 間にはスプリングが入っており、鉄板は自由に振動できるようになっている。 この鉄板の上に白い大理石の細かい粉を薄く撒き、ゴムボールを鉄板に 擦り付けると、鉄板が振動し、白い粉が振動の節の部分に集まり模様となる。 その粉の模様を含めて作品にしている。しかし、太鼓の皮の上に薄く砂を撒いて 振動によって模様を作る、というような実験は、小中学生向けの科学工作・実験 でよくあるものだ。それに、鉄板の形状が単純なため、振動させる前から、 どこに節ができるか簡単に予想がついてしまう (正方形なら三角関数だし、 円形ならベッセル関数だ)。正直に言って、『Life / Art '01』 で模様になった 白い粉が載った「振動態」が静的に展示されているものを観たときは、 全く面白いとは思わなかった。しかし、今回、作家の実演を観て、振動を可視化 しているということではなく、どう可視化 (さらに、体感できるものに) しているのかが、この作品では重要なのだということを実感した。「振動態」を 実際に振動させたときに生じる音は大きく、離れたギャラリーでも聞えるほどだ。 このドローン (通奏低音) のような大きな音が響き渡ると、ギャラリーの雰囲気が 大きく変わる。鉄板の振動も激しく、振動の腹の所に指で触れる (作家が触る ように勧めてくれた) と弾き飛ばされるような感じだし、触れずに近くに立って いるだけでも振動が体感できるほどだ。細かい白い粉が暗褐色の鉄板の上で踊る 様子の質感も、静かに粉が撒かれているのと異なり、面白い。擦るゴムボールの 大きさや、擦る場所によって、振動のモードが異なるわけだが、振動のモードが 変わる際の、模様が変わっていく様子も、シミュレーションによるアニメーションや コンピュータ・グラフィックには無い質感があって面白かった。僕が観ているときに、 ちょうど、聴覚障害者のグループがやってきたのだが、そんな彼らですら、 作家による実演を楽しんでいた。 「鉄と熱の風景」や「ステンレス・スチール」のシリーズは、工業材の単純な形状 を生かしたミニマルな彫刻で、形状のミニマムさから際立つ溶接痕の質感を楽しむ ような作品だった。こういうものも嫌いではないが、音が出る「音のかけら」や 「振動態」のシリーズの印象の方が強烈で、印象が霞んでしまったかもしれない。 この展覧会にはぎりぎりまで気付いていなかったために、最終日に観に行ってきた。 この展覧会でも何回か他の出演者を交えたパフォーマンスを企画していたようだが、 スケジュールを把握しておらず、残念ながら、観ることができなかった。偶然、 作家による「振動態」の実演を観ることができたのは、幸運だったように思う。 2002/04/07 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕