『フォーエヴァー・モーツアルト』 _For Ever Mozart_ - France / Switzerland / 1996 / 84min / color. - Directed by Jean-Luc Godard. 僕にとって、_Nouvelle Vague_ (1990) 以降の Godard の映画に対する、 僕の一番の興味は、Germany の jazz / new music のレーベル ECM との協働だ。 ECM 音源の特殊リミックスとしてのサウンドトラックと、それに対する物語 仕立てのイメージ映像、という観方も可能だと思うし、表現に対するメタな 言及でつまらなくなるギリギリのところで踏みとどまっているように感じるのも、 そういう音と映像の綺麗さのせいではないか、とも思う。 この1996年に作られた映画でも、題名に出てくる Mozart の音楽も出てくるが、 それ以上に Ketil Bjornstad / David Darling / Terje Rypdal / Jon Christensen, _The Sea_ (ECM, ECM1545, 1995, CD) の音源がフィーチャーされている。 といっても、曲として用いられている、というより、ここの楽器の響きが映画に 割り込んでくる感じだ。車のエンジン音、戦車、迫撃砲や機関銃の音といった 耳障りな音の使い方に近い感じで、セリフやそれらの物音と場の取り合いをする ように出入りしていく。映画館で立体的に聴きたい音だ。特に、Darling の cello の音色が印象的。_Nouvelle Vague_ でも Darling がかなり目立っていた ように思うが、Godard が好きなんだろうなあ、と思う。Bjornstad の piano は 普通に使われているという感じだ。Rypdal の音は Godard が好きでないのか、 それらに比べてほどんど使われていなかったように思う。 最近、ECM レーベルのCDジャケットに、Godard の映画のスチル写真が時々 使われるわけだが、そういうグラフィカルな感じの画面の綺麗さも、重要だと 思うのだが。_Nouvelle Vague_ に比べていまいちかなぁ、とも思う。フレーミング の妙など使った遊びや、映像的な駄洒落とでもいう遊びが、あまり感じられ なかったのが、ちょっと意外だった。そのせいか、ちょっとユーモアに欠ける ようにも感じられた。最近、映画をあまり観なくなっているので、そういった 遊びに対する感度が下がっているだけかもしれないが。 1996年という年もあってボスニア内戦に言及しているが、そういう題材の扱い方 というか、題材との距離の置き方も、昔とあまり変わらないと思うし、 新たな見方を提示されたとも思わない。しかし、ファン・ゴイティソーロ 『サラエヴォ・ノート』 (みすず書房; Juan Goytisolo, _Cuaderno de Sarajevo_, 1993) から、「1990年代は1930年代の繰り返しだ」という感じの言葉が引用 していたのが、印象に残った。単に、以前に僕がこの本を読んだときに 最も印象に残っていたフレーズだったからに過ぎないかもしれないが。 2002/08/03 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕