『ソニア・ドローネ』 Sonia Delaunay, _La Moderne_ 東京都庭園美術館, 港区白金台5-21-9 (白金台), tel.03-3443-8500. http://www.teien-art-museum.ne.jp/ 2002/7/6-9/8 (7/10,7/24,8/14,8/28), 10:00-18:00 1910年代に Paris の Avant-Garde なシーンに現れ、テキスタイル・ファッション といった分野でも活躍した女性アーティスト Sonia Delauney の回顧展は、 純粋な絵画よりも、詩集の挿画や服飾デザイン画の方が楽しめる展覧会だった。 最も印象に残ったのは、_Dress-Poem for Tzara_ (1923) というデザイン画と いうかデッサン。Dada の詩人 Tristan Tzara のためのものなのだが、真っ赤に 逆立った髪型といい、大きく文字を配した服といい、古びてないどころか、 Punk 〜 New Wave 的にすら感じられるものだ。Dada に関する本などで窺い知る Tzara のキャラクターにお似合いという感じも、可笑しかった。 Tristan Tzara の舞台作品 _Le Coeur A Gaz_ (1925) の舞台衣装のための一連の デザイン画というかデッサンも、そんなパンキッシュな _Dress-Poem for Tzara_ に準じたようなものもあり、再現した舞台を観てみたいと思わせるものがあった。 _Costume Simultane_ (1924) などは、デザイン画でみるとちょっと肩バットとかが 大袈裟に入った服という感じなのだが、実際の服の写真を見ると、箱状のハリボテ って感じだったのも可笑しかった。 デザイン画は無かったが、1925年のアール・デコ展の時に撮ったという、彼女自身が デザインした服を着て撮った自身の写真も、エッフェル塔の鉄骨構造をモチーフに した模様を使った帽子とストールがとてもモダンでかっこ良かった。奇抜さを 狙った感もある舞台衣装の類とはまた違った、ファッションとしてのカッコ良さが あったように思う。こんな感じで、1920年代 (Delaunay 自身は「狂乱の時代」と 言っているようだが) の作品が、やはり、最もノっているように感じた。 しかし、実は、観に行く前に最も期待していたのは、装丁デザインの作品だった。 特に期待していたのは、Braise Cendrars の詩に合わせて抽象的な絵を付けた 縦長の絵巻 _Le Prose du Transsiberien et la Petite Jehanne de France_ 『シベリア横断鉄道とフランスの少女ジュアンヌ』 (1913) だったのだが、 思ったより小さく印象が薄め。展示を見るのではなく手に取って見れば、 また違ったのかもしれないが。 Tristan Tzara, _Le Fruite Permis_ の挿画 (1956) や Authur Rimbaut, _Les Illuminations_ (1973) の挿画など、戦後の詩集の挿画は、作風としては、 _Autoportrait_ シリーズ (c.1910s) に見られるような8の字かS字のような 円形を基調としたコンポジションの反復で、もはや Avant-Garde というわけ ではないとは思うけれども、絵の大きさとしては展示として色や形の作るリズムを 楽しむのにちょうど良いように思った。ただし、原画だけで、どのような詩に 添えられたものなのか判らなかったのが、少々残念だった。 自画像やコンポジションの類の純粋の絵画は、確かにデザインのパターンの 原型になっているのは判るのだけど、それだけでそれほど強いと感じるもの でなかった。しかし、ファッションのデザイン画はおおいに楽しんだし、 展覧会としては十分に楽しめるものだった。 あと、アール・デコの洋館である旧朝香宮邸を使った東京都庭園美術館が会場と いうことで、館内の装飾と Delaunay のデザインの相性はぴったり。特に、 扉の装飾は、Delaunay のもの、とか言って信じる客もいたのではないか、と 思うほどだった。一昨年の Fortunato Depero、昨年の Stenberg Brothers と、 戦前 Avant-Garde の、それも少々デザイン寄りのアーティストの展覧会が 年一回くらいのペースで続いているわけだが、箱との相性も良く、こういう 感じで続けて欲しいと思う。 2002/08/11 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕