全5作の _Cremaster_ シリーズの最終作 _Cremaster 3_ を観てきた。ちなみに、 最初に作られた2作 _Cremaster 4_ と _Cremaster 1_ は観ているが、他の2作は 残念ながら観ていない。 『クレマスター3』 _Cremaster 3_ - USA / 2002 / 182min / 1:1.66 / color. - Written and Directed by Matthew Barney. Music by Jonathan Bepler. - Matthew Barney (The Entered Apprentice), Aimee Mullins (The Entered Novitiate/Oonagh MacCumhai), Richard Serra (Hiram Abiff), etc. 現代美術の文脈で捉えられることが多い Matthew Barney の映画 _Cremaster_ シリーズだが、技法などに特に凝ったことをしているわけでも、メタな言及を志向 しているわけでない。むしろ、ドロドロ感やグチャグチャ感のような質感への拘りを 感じる、ナンセンスというよりは意味深長という意味でシュールな、大人向けの ファンタジー映画といった感じだ。1980年代半ばの Peter Greenaway の雰囲気にも 近いし、セリフが無いという点でも実写になってからの Jan Svankmajer とも 共通点を感じる。こういう表現は欧州から多く出てきているように思うけれど、 これをアメリカ的にすると _Cremaster_ のようになるのだろうか。Chrysler Building や Guggenheim Museum のような近代建築を舞台にしていることや、自動車のぶつけ 合いのようなシーンに、特にアメリカ的なものを感じる。Greenaway や Svankmajer に比べての毒気の無さとかも、アメリカ的なのかもしれない。 明確なストーリーがあるわけでないし、むしろディテールで楽しむ映画だと思うが。 最も印象に残ったのは、エレベータの扉をこじ開けたときに鳴るヒューっという音を Aeolian harp の音のように見なして、エレベータの扉の上に作った harp 様との アンサンブルを奏でるシーン。Cloud Club のバーで、猫が Theremin を奏でる シーン (実際の演奏は、Rob Schwimmer) も可愛らしくて良かったけれど。 セリフが無いせいか、音楽的なシーンが印象に残っているように思う。 _The Wire_ Issue 223 (Oct. 2002) に取り上げられていたので音楽も気にして いたところもあったが、それほど凄いことにななってなかった。Celtic folk 的な 要素を強く感じたのは、テーマのせいだろうか。 恐らく Guggenheim Museum のらせん状のスロープを使ったと思われるシーンも シュールでちょっとばかばかしくて可笑しかった。5段階の相手をクリアしていく ようなゲーム的な展開だったのだけど、最後のボスキャラ的な存在が、現代美術 彫刻家の Richard Serra だったのも、妙にとぼけた感じで可笑しかった。ちなみに、 3番目のキャラが Agnostic Front vs Murphy's Law という NY Hardcore punk バンドのサウンドクラッシュというのも、前後 (山羊衣装のラインダンサーと Aimee Mullins 扮する猫女) との落差が大きくて可笑しかった。 あと、主演女優の Aimee Mullins も印象的。1998年パラリンピックで活躍した両脚 膝下義足の陸上短距離走の選手で、1999年春夏コレクションで Alexander McQueen の モデルもしていたようなのだが。観ている間はそういう人とは知らず、ガラスの 義足や猫脚の義足は、ひょっとしたらCGなんだろうか、とか考えてしまったほどだ。 そういう義足の積極的な使い方もあるのかと、感心してしまった。 しかし、途中で一回休憩が入るとはいえ、3時間というのは集中を持続するのは 大変だ。正直に言って後半の始まりで少々うとうとしてしまったけれども、 明確なストーリー無しにイメージだけで観せている映画としては、充分に楽しめる 映画だったと思う。 2002/09/15 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕