Timothy O. Benson (ed.) _Central European Avant-Gardes: Exchange and Transformation, 1910-1930_ (The MIT Press, ISBN0-262-02522-1, 2002, book) - 22cm x 26.5cm, pp.448, hardcover. Timothy O. Benson and Eva Forgacs (ed.) _Between Worlds: A Sourcebook of Central European Avant-Gardes, 1910-1930_ (The MIT Press, ISBN0-262-02530-2, 2002, book) - 17cm x 25cm, pp.736, hardcover. Los Angeles County Museum of Art で2002/3/3〜6/2に開催された中欧の Avant-Garde(s) に関する展覧会のカタログが2分冊で出ている。前者が図版と 中欧の Avant-Garde(s) について論じた論文からなる本で、後者が当時に 機関誌などに発表されたマニフェストや論文の類を集めたものになっている。 プラハ (Prague, CZ)、ブダペスト (Budapest, HU)、ウィーン (Vienna, AT)、 ベルリン (Berlin, DE)、ワイマール (Weimar, DE)、デッサウ (Dessau, DE)、 ブカレスト (Bucharest, RO)、ザグレブ (Zagreb, HR)、ベオグラード (Belgrade, YU)、リュブリアナ (Ljubliana, SJ)、ポズナニ (Poznan, PL)、 クラカウ (Cracow, PL)、ワルシャワ (Warsaw, PL)、ウッジ (Lodz, PL) という 中東欧の14都市 (国は現在のもの) を主に取り上げ、各都市を拠点とした Avant-Garde の活動を紹介している。扱っているジャンルは、美術を中心として デザイン、建築まで視野に入れている。しかし、それらと同様に扱われているのが、 Avant-Garde の活動の拠点ともなった機関誌だ。 題名から想像されるように、中欧において Avant-Garde がどのように交流し 変容し多様な展開を見せたか、が、テーマなのだが。正直に言って、表現の 多様性については、この2冊の本からは捕らえ辛かった。というのも、おもに テキストからの検討で、実際の作品などに拠るものではないからだ。 _Exchange and Transformation_ の方も、図版は多いとはいえず、むしろ、 論文の参考資料という扱いだし。ソースブック _Between Worlds_ もほぼ全面的 にテキストだからだ。Avant-Garde といってもイデオロギー的に一枚岩ではなく、 揺らぎがある、というのは判らないではない。それより、戦前の Avant-Garde は、 実際の作品と同じくらい、機関誌などに載せられたマニフェストの類が重要な 位置を占めていた (ま、よく言われることだが)、ということを実感させられた。 多様性に関わる部分といえば、他の比較的メジャーな都市に交えて Lodz が 取り上げられているのは、そこに Jewish の Avant-Garde の拠点があったから、 とのことのようだ。ヘブライ文字で書かれた機関誌の表紙など、見慣れないだけに、 目に付く。Margit Rowell, et. al. _The Russian Avant-Garde Book 1910-1934_ (The Museum of Modern Art, New York, ISBN0-87070-007-3, 2002, book) でも Jewish のものをある程度割いていたが、中東欧の Avant-Garde では、Jewish の コミュニティがある程度の役割を果たしていたのだなぁ、と、興味深かった。 しかし、むしろ、こういう資料から伝わってくるのは、交流という面だろうか。 この本で取り上げられている範囲で交流が閉じていたわけではない。Paris, FR や Moscow, RU、Amsterdam, NL といったシーンとの交流も、もちろんある。 _Between World_ の扉の図版として使われている Budapest 発の機関誌 _MA_ の 表紙には、交流のあるほかの機関誌の名前が挙げられているのだが、Berlin や Weimar、Wien、Paris、といったメジャーな街のものに並んで Zagreb, HR の _Zenit_、Brusselles, BE の _Ca Ira_、Novi Sad, YU の _UT_ といったものが 交じっている。Zagreb のシーンはこの本で紹介されているが、Novi Sad は紹介 されていないし。Amsterdam の _De Stijl_ は有名だけれど、Brusselles の _Ca Ira_ は知らなかったし。この本が掬い上げているのも、まだその一部だと 感じさせて、とても興味を惹かれた。 テキスト中心で、見て楽しむという類の本ではないので、あまりお薦めではない。 テキストについては、僕もほとんど読んでいない。頭から丁寧に読むのではなく、 必要に応じて対応個所を読むという類の本だろう。資料として持っておくと、 Paris-Berlin-Moscow のメジャーな Avant-Garde に関連して、中欧のマイナーな シーンを探索する際の手がかりとして使えそうだ。 2002/09/16 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕