Nederlands Dans Theater I II III Gala 彩の国さいたま芸術劇場 (与野本町), http://www.saf.or.jp/ . 2002/10/05, 14:00-17:30 『彩の国キリアンプロジェクト Kylian - NDT Festival 2002』の中で、 NDT (Nederlands Dans Theater) の3つのグループが一緒になって公演を行う ガラ・プログラムが上演された。これは、ステージの外まで使った、非常に堪能 できた面白いプログラムだった。特に、ダンサーの知り合いがいるわけでもなく、 ダンスの舞台に立つことも無かったっただけに、ダンサーの生々しさというか、 人間らしさを実感することができたという点では、とても良い観賞体験ができた。 コンテンポラリーなダンスのステージを観ている際に、ダンサーを表現のための 素材、というか、抽象的の存在として観ていたんだなぁ、と反省させされるような ところすらあった。頭ではそうだと判っていたはずだけれども、ダンサーも人間 なんだなぁ、と、感覚的に実感したように思う。 Nederlands Dans Theater, _Backstage Tour_ (2000/2002) - Consept: Jiri Kylian, Carine Guizzo. Choreography: Carine Guizzo in collaboration with Yvan Dubrueil. 劇場の大奈落や機械室などの場所を使ったインスタレーション & パフォーマンス が、劇場での公演開始前の1時間を使って行なわれた。せいぜい青い光で照らされた 空間の一角にスポット的に光が当てられ、そこでダンサーがダンスしていという よりも蠢いている、という感じのもの。例えば、ダクトスペースの扉が開いていて、 そこが明るくなっていて、中にダンサーが蠢いている、という感じだ。観客は、 設定された通路に沿って歩きながら、それぞれのパフォーマンスを観ていく、 という趣向で、見世物小屋か何かという怪しげな雰囲気も面白かった。もちろん、 普通なら決して足を踏み入れることの無い劇場の裏側の空間を見る興味もあった けれども。 しかし、最も面白かったのは、ダンサーまでの距離。十メートル以上離れた座席と 舞台の距離というわけではない。手で触れられるほど近くでパフォーマンスして いることもあるのだ。そのため、本物の人間が蠢いているのだと生々しく感じられ、 それがとても新鮮で面白く感じされた。 ちなみに、この企画自体は、NDT 25周年記念公演 _Arcimboldo 2000_ で行なわれた ものの、日本ヴァージョンとのこと。 Nederlands Dans Theater I, _Bella Figura_ (1995) - Choreography: Jiri Kylian. NDT の主力とも言える22〜40歳のダンサーからなるグループ NDT I による舞台。 Jiri Kylian の振り付ける比較的普通のバレエ的な舞台も良いなあ、と思ったが、 今回の公演の他の演目の演出が、強烈な異彩を放っていただけに、割を食って 印象薄めになっただろうか。 演出的に見所が無かったわけでなく、舞台の奥行きを使い、奥を暗くし、奥から フェードイン・フェードアウトするような舞台の出入りを使うなど、演出的にも 渋めでいいなぁ、と思う所もあったが。 Nederlands Dans Theater III, _Duet from "Land"_ (2002) - Choreography: 竹内 秀策. - Sabine Kupferberg, David Kruegel. 続いて、再び劇場を出て、建物の光庭 (小さな明り取りの中庭) を使っての大道芸 などでよく行なわれる人間彫刻的な10分程度の小パフォーマンス。動きが凄いとか いうよりも、この場所をステージに見立てたという時点で、それなりに成功だった ように思う。 Nederlands Dans Theater II, _Minus 16_ (1999) - Choreography: Ohad Naharin. 続いて、NDT の若手、17〜22歳のダンサーからなるグループ NDT II による舞台。 音楽にラテン系のリズムを多用していたこともあり、バレエというよりモダンダンス、 という感じの舞台だった。ダンサーは黒スーツに黒ソフト帽という服装。半円状に 椅子を並べてバタバタと服を脱ぎながら踊るところが、可笑しくて印象に残っている。 後半の頭、ダンサーが客席に下りてきて、客席から10名余り一般客をピックアップし、 舞台に連れて上がり一緒に躍らせていた。図らずしも、ピックアップされた一人に なってしまい、舞台で踊っていたので、客席から観てどんな様子だったのか 判らないのだけれど。特にダンスとかのトレーニングを受けていなさそうな人を 選んでいたような気がするので、そういう人の動きとの対比とか狙っているの だろうか、とも思う。 舞台にピックアップされた人は、これといった明確な指示は出ないのだけど、 単にサポートしているだけでなく、いろいろな動きをすることになった。 いきなり女性ダンサーに飛び付かれて、そのままリフトをしたときは、我ながら かなり驚いたが。(どうやら、そんなことをされていたのは、この舞台では僕一人 だったようだが。落とさなくてよかった。) しかし、一緒に踊っていて、確かに 身体の動きの良さは違うけれど、ダンサーも人間なんだなぁ、とつくづく思った。 Nederlands Dans Theater III, _Birth Day_ (2001) - Choreography: Jiri Kylian. 最後は、40歳以上という通常のダンスカンパニーでは引退しているような年齢の ダンサーたちのグループ NDT III による舞台。去年の彩の国さいたま芸術劇場 での公演で初演した、映像を大幅にフィーチャーした作品の再演だ。去年と 映像は全く同じだし、大幅に変えているところは無かった。 年老いてから誕生日を祝うことについての作品だが。映像と実際の動きの併用も、 イメージ通り動かなくなってくる身体、っていうテーマに合致していて、説得力が 感じられるのが良い。シリアスにもなりかねない主題だが、それをユーモアを 持って作品にしているのも気にいっている。 Nederlands Dans Theater, _Polonaise_ (1995) - Choreography: Jiri Kylian. _Birth Day_ から休憩無しにそのまま、NDT I, II, III 3つのグループ併せての 群舞 _Polonaise_ に突入。特にソロやデュオのようなものは無かったけれども、 真っ赤な袴のようなボトムが鮮やかで、華やかなフィナーレという感じだった。 カーテンコールになって、ダンサー達が客席に降りてきて、客席通路を一周 巡ったのも印象的だった。_Backstage Tour_ や _Minus 16_ を含めて、公演中 何回かダンサーを間近に見る機会が、意識的に作られている、という感じなのだ。 それも全く舞台から切り離された形 (例えば、終演から暫らくしてホワイエに 出てくるような) でではなく、あくまでパフォーマンスの延長として。いわゆる ガラ・プログラムならではのサービスなのかもしれないけれども。あくまで演じて いるのは人間なんだ、と強調されたような感じがして、客席から遠くの舞台の 上のダンサーの動きを観ただけで終るのとは、印象が大きく違ったように思う。 例えば、珍しいキノコ舞踊団なども、ある意味で、ダンサーの「等身大さ」を 意識しているところがあるように思うけれど。そのため、日常っぽさ、俗っぽさ を大幅に取りいれているところがあると思う。しかし、今回の NDT の今回の ガラ・プログラムは、そういう所からも巧く一線を画して、非日常性を生かしている 感じがあって、面白かった。(どちらのアプローチが良いということではないが。) 2002/10/06 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕