『チャペック兄弟とチェコ・アヴァンギャルド』 _The Capek Brothers and Czech Avant-Gardes_ 神奈川県立近代美術館, 鎌倉市雪ノ下2-1-53鶴岡天満宮境内 (鎌倉), tel.0467-22-5000 http://www.planet.pref.kanagawa.jp/city/kinbi.htm 2002/9/21-11/24 (月休;9/23,10/14,11/4開;9/24,10/15,11/5休), 9:30-17:00. 本館の2つのギャラリーのみを使った小規模な装丁デザインを中心とした展覧会。 最初のギャラリーで、1920s〜30s年代に Czechslovakia で活躍した小説家 Karel Capek と、その兄で画家・装丁デザイナー Josef Capek に関する本や 絵画、版画、写真を、二番目のギャラリーで同時代に活躍した Czechslovakia の avant-garde なデザイナーたちによる装丁デザインの本を展示していた。 最も印象に残った展示は、やはり、Karel Capek, _Dasenka Cili Zivet Stenete_ (『ダーシェンカ あるいは子犬の生活』, 1933) の初版本だろうか。僕の持って いるのは、その続きというか第2〜4章の部分を再構成・日本語訳した カャレル・ チャペック 『ダーシェンカ』 (新潮社, ISBN4-10-531701-6, 1995) だけという こともあって、その先入観が大きかったのだが、それと雰囲気がかなり異っている。 Karel Teige によるデザインということもあって、フォントにセリフ付きのものも 用いられているとはいえ、大胆な色使いと構成、フォトモンタージュといい、 まさに avant-garde なデザインなのだ。開かれたページも、Karel Capek に よる大判の写真に簡潔にキャプションとイラストが添えられているというもの。 装飾を抑えた感じも「子供向け」という雰囲気のほとんど感じられない作りだった。 ちなみに、新潮社版とは別に、展示されている初版より簡潔なデザイン (同じく Teige によるもの) を生かした1936年版の日本語訳も出ている (カレル・チャペック 『ダーシェンカ あるいは子犬の生活』(SEG出版, ISBN4-87243-052-2, 1995))。 ちなみに、初版の表紙が、今回の展覧会のフライヤに用いられているのだが、 そのままA4の大きさに印刷して手を加えていないのが、嬉しい (展覧会に関する 情報とかは全て裏面に印刷されている)。粋な計らいだと思う。 第一ギャラリーに展示された Josef Capek の装丁デザインは、線や文字にしても 手書きの雰囲気を生かしたもので、avant-garde 的なシャープさは控えめに感じ られて、むしろ、可愛らしさすら感じられてしまった。Karel Capek の本については、 「ロボット」という言葉を初めて使った _R.U.R. (Rossum's Universal Robots)_ (1920) の初版本や演劇資料など大きくフィーチャーされていた。もちろん、それは 判るけれども。山椒魚をどう描いているのか興味あっただけに、_Valka S Mloky_ (『山椒魚戦争』, 1936) に関するものが一冊も無かったのは少々残念だった。 第二ギャラリーは、同時代の Czechの avant-garde たちによる装丁本の展示。 デザインとしては、Russia や Hungary の構成主義 (constructivism) の影響と いうか同時代性が強く感じられるものが多かった。そんな中でも、Poetism を提唱し Devetsil を率いた Karel Teige のデザインが、やっぱり目立っていたように思う。 最も目を引いたのは、Vitezslav Nezval, _Abeceda_ (aka _Alphabet_, 1926)。 1922年の Nezval のテキストに、1926年に Milca Mayerova が振り付けを付けて ダンスにしたのだが、それを本にしたもの。Karel Paspa がダンサーの写真を撮り、 Karel Teige が構成主義的な装丁デザインで本に仕上げている。テキストは判ら ないのだが、人の動きのデザイン (ダンス) と文字・写真のレイアウトのデザイン のコラボレーションという感じなのだが、単純さも大胆に感じられて、楽しそうな 本になっていた。Timothy O. Benson (ed.), _Central European Avant-Gardes: Exchange and Transformation, 1910-1930_ (The MIT Press, ISBN0-262-02522-1, 2002, book) で図版は見たことがあったけれど、実物を見ると印象が違う、とも 思った。 展示を観ていて感心したのは、日本国内の個人蔵のものが過半を占めていたこと。 日本にもこの手の本のコレクターがけっこういるのだなぁ、と感心してしまった。 Czech avant-garde の装丁デザインの展覧会としては、以前にも『チェコ・ アヴァンギャルド・ブック・デザイン 1920s-'30s』(Ginza Graphic Gallery, 1996) を観たことがあったし、それなりに予備知識はあった。しかし、_Dasenka_ の オリジナルの装丁デザインが Karel Teige だったことに気付かされたり、と、 収穫もいろいろあった展覧会だった。 2002/10/13 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕