『月の向こう側』 _The Far Side Of The Moon_ 世田谷パブリックシアター (三軒茶屋), http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/ . 2002/10/19, 14:00-16:30. - Written and Directed by Robert Lepage. Performed by Yves Jacques. Original music composed and recorded by Laurie Anderson. Montreal, Quebec 出身の Robert Lepage の演出による Yves Jacques の 一人芝居は、ミニマルながらトリッキーで効果的な舞台装置・映像使いもあって、 イメージをかきたてられるような舞台で、とても楽しめるものだった。 大きな舞台装置としては、背景に、1mくらいで等間隔に区切られた黒い板。 これは、バラバラにスライドし、壁になったり戸になったりクローゼットに なったりする。2枚に丸窓が填め込まれていて、これも、飛行機や宇宙船の 窓はもちろん、コインランドリ―の機械や時計や金魚鉢に見立てられたりもする。 もう一つは片面が鏡面になっていて、片面が蛍光灯が付けられた天井のような 構造になっている大板がある。それが回転しながら上下し、天井になったり テーブルになったり背景になったり。最後には、宇宙遊泳を表現するために すら使われる。投影される映像と微妙なライティングの助けを借りている とはいえ、単純な装置に、役者の演技だけを使って、状況を巧く表現していた のがとても面白かった。小道具にしてもアイロン台を、テーブルからスクーター からスポーツジムの機械から人物にすら見立てて使っていた。 説明的なものを最小限に抑えて、観客の想像力に任させる部分が多いわけだが、 投影される映像や役者の演技が想像のきっかけとして巧く機能していたせいか、 かなり具体的なイメージ的まで見せられているような面白さもあった。 ま、舞台装置や小道具などの制約の多い演劇では、観客の想像力に任せる ような演出をすることも多いわけだけれど。Lepage の舞台は、単に観客の 想像力に任せているということでなく、想像力をかきたてられるような演出 するための必然、と感じさせられるような、そんな強さがあったように思う。 米ソ冷戦と宇宙開発競争というマクロポリティクスと、性格だけでなく社会的 成功の度合いも違う兄弟の不和と和解というミクロポリティクスを、うまく 重ね合わせた筋も、ちょっとしたシリアスさはあるとはいえ、笑いもあるし、 とても優しさを感じるもので良かったのだけど。そういう物語に入ることが できたのも、ミニマルながら想像力をかきたてられるような演出と演技があった からかな、と思う。 正直に言って、観る前は、音楽の Laurie Anderson 以外にたいして予備知識が 無かったのだけれども。Anderson の音楽の印象がほとんど残っていないほどだ。 2002/10/19 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕