Goethe Institute (http://www.goethe.de/) が、『ベルトルト・ブレヒトの工房から』 (_The Bertolt Brecht Workshop_) と題して、劇作家 Bertolt Brecht に関連した 映画の国際巡回上映会を行っている。(ちなみに、この企画、遺族の意向で、各会場 での上映は一回ずつという制限が付いている。観る機会が限られていて、残念だ。) 上映プログラムの中から、戦前のサイレント〜初期トーキーの作品を中心に観てきた。 観たものについて、簡単なコメントを。 『ある床屋のミステリー』 _Die Mysterien Eines Frisiersalons_ - Directed by Bertolt Brecht, Erich Engel & Karl Valentin. - 24min, B+W, silent, 1923. 当時の Munich で人気のあったキャバレー芸人 Karl Valentin らと共同監督し、 Valentin やその相棒の女性芸人 Liesl Karlstadt が出演している短編映画だ。 Valentin がらみという期待が大きかったせいか、大笑いしたというほどでは 無かった。社会風刺色も控えめ。ドタバタ的な動きもあるし、決闘シーンのように アクションで観せるというところもあるが、それが特に面白い、というほどでは 無かった。むしろ、床屋が客の首を切り落としてしまったり、その首を挿げ直したり、 最後にまた吊り上げられて外れたり、という、シュールでちょっとグロテスクな 感じが、笑える作品だったように思う。ちなみに、ストーリーは、他人の作品を Brecht が密かに焼き直したもの、という逸話もある。 『男は男だ』 _Mann Ist Mann_ - Directed by Bertolt Brecht. - 15min, B+W, silent, 1931. 1925年作の戯曲の舞台を捉えた作品。連続写真をパラパラで観ている感じの上、 画質が悪い。サイレントなどで、セリフや音楽も判らない。Brecht の当時の舞台演出 についての、ドキュメンタリー的な興味深さはあるが、映画作品として観るには 正直に言えばちょっとキツかった。 『クーレ・ヴァンペ、あるいは世界は誰のものか?』 _Kuhle Wampe Oder Wem Gehoert Die Welt?_ - Directed by Slatan Dudow. Written by Bertolt Brecht & Ernst Ottwalt. - 75min, B+W, 1932. 不況で若者が職にあぶれているろいう1930年代初頭の状況が、現在の日本の社会状況 に重なって見える映画だった。労働者の連帯・組織化を訴えるシーンとかが多い、 など、内容の共通性もあるが、遠近短縮法を思わせるアングルの映像や、工場の 大型機械が動く様子を抽象度高めに捉えた映像など、Russian Avant-Garde の映画と 共通するものをかなり大きく感じられた。おそらくかなり影響を受けたんじゃないか と思われる。深く登場人物の心理を描き込むというより、もっと形式的。あまり ストーリーと関係なく、Bertolt Brecht / Hanns Eisler な歌に比較的抽象的な 映像 (ざわめく林、動く工場のクレーンや機械、スポーツする労働者たち、など) を 合わせたミュージック・ビデオみたいな感じになるときもあって、それがカッコ 良かった。監督の Dudow は Bulgaria 出身、Brecht と一緒に演劇の演出もして いた人のようだ。Brecht は脚本のみにクレジットされているが、朝から晩まで 撮影現場に来て、ダイアローグをチェックしたり演技指導したりしていたとのことだ。 『三文オペラ』 _Die Dreigroschenoper_ (1931) - Directed by Georg Wilhelm Pabst. Based on Bertolt Brecht's play. - Rudolf Foster (Mackie Messer), Carola Neher (Polly), Lotte Lenya (Jenny). 1928年作・初演の Brecht の代表作を元に、G. W. Pabst が映画化したもの。 初めて観たのだが、後半かなりストーリーが変えられていた。Mackie が牢屋に 入れられている間に、Polly が経済的に成功して銀行を経営していて、脱走した Mackie や、乞食のデモで首になった警視総監 Brown や、乞食のデモを制御できなく なってしまった乞食屋の主 Peachum が、その銀行に収まって大団円、というオチ になっていた。かなりステロタイプな感じになってしまったかなぁ、と思いも したけれど。舞台設定上仕方ないのだけれど、1920s モダンというよりも、 ベルエポックという感じだったのも、少々残念。ま、初期トーキー映画の雰囲気は 楽しめたけど。ちなみに、監督は、Louise Brooks (Lulu) 主演の『パンドラの箱』 (_Die Buechse Der Pandora_, 1929) を撮った Pabst。 2003/02/02 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕