『人でなしの女』 _L'Inhumaine_ - France, 1924, 134min, 35mm B+W silent. - Directed by Marcel L'Herbier. - Jaque Catelain (Einar Norsen), Georgette Leblanc (Claire Lescot), etc. スター歌手 Claire Lescot と、それに恋をする科学者 Einar Norsen の物語 なのだが、その物語には入ることができなかった。そのため、2時間余りは長く 感じた。しかし、ディティールは充分に楽しめた映画だった。 Fernand Reger による幾何的でシャープさも感じる美術 (特に実験室)、 Paul Poiret によるドレスなども、Avant-Garde 寄りな Art Deco の匂いが ぷんぷんするものだ。しかし、その中でも、建築家 Rob Mallet-Stevens が 手掛けた、舞台となるウルトラモダンな邸宅のセットは、主役級の存在感 がある。住みたいとは思わなかったけれど。 当時の Russian Ballet と並ぶ Avant-Garde なバレエ団 Swedish Ballet の Rolf de Mare が協力しているのも、観る前に期待していた点だった。しかし、 途中の Lescot の舞台のシーンでのダンスもむしろフォーク的なもので、特に その雰囲気は無し。むしろ、エンディング近く、Lescot を蘇らせるために Norsen が助手たちと実験室で奮闘するシーンでの、ウルトラモダンな実験室の セットと、複数の人の協調したリズミカルな動きが、ダンス的に感じられて 面白かった。明和電機 〜 グラインダーマンのパフォーマンスと共通するような 部分も感じられたし。 パフォーマンス的な要素といえば、始まってすぐの Lescot を囲んでのパーティー のシーンに出てくるジャズ伴奏での3つの見世物も気になった。3つの芸が 行なわれたのだが、アフリカ人による火喰いパフォーマンス、アラブ人による 剣舞に先だって、足の上で樽を回す足芸が長くフィーチャーされるのだが。 洋装だったけれども、背の高さといい、あれは日本人芸人かもしれない。 顔がはっきり映ることがあまり無かったこともあり、残念ながらちゃんと確認 できなかったのだが。芸のラインナップからしても、非西洋的なパフォーマンス を揃えていると考えられるし、足の上で樽や襖を回す足芸は江戸時代からある 日本の伝統的な芸だ。中国の雑技でもあるので中国人かもしれないが。足芸を していたのが日本人芸人であったかは別にしても、こういう非西洋的要素、 サーカス的要素の使い方も、当時の Avant-Garde らしい、と思った。 音楽関係としては、映画の中で、ジャズバンドのコード楽器が banjo だった ことと、Lescot の歌伴で弾かれていたのが balalaika だったことが、気になった。 この映画は、もともと Les Six の Darisu Milhaud の音楽が付けられていた。 今回の上映は、渡辺 雄一 によるピアノによる生演奏付きだったのだけれど。 Milhaud の曲を演奏していたのかどうかは、残念ながらわからなかった。 印象からすると、違うような気がするけれど。 こういったディティールで楽しむ一方、物語に没入できなかったのは、スター歌手 Lascot 役の Leblanc が好みではなく (どうして「モガ」なキャラクターでは ないんだ……)、周囲の男性を誘惑して振りまわす「人でなしの女」という設定に リアリティを感じることができなかった、ということが、確かにあるかもしれない。 しかし、それだけではなく、この映画の設定でもある、当時の上流階級のライフ スタイルに自分が親近感も憧れも感じない、ということも大きいだろう。それに 比べて、僕が同時代のロシア・アヴァンギャルドの映画 (Sergey Eisenstein の 歴史ものではなく、Boris Barnet や Lev Kureshov とか) の方が好きなのは、 それらが描く労働者の (というより近代の) 夢のライフスタイルの方が、 今の自分のライフスタイルと連続性を感じるからのように思う。 2003/06/28 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕