『ロシア・アヴァンギャルドの陶芸』 _Russian Avant-Garde Ceramic Art_ 茨城県陶芸美術館, http://www.edu.pref.ibaraki.jp/tougei/ 茨城県笠間市笠間2345番地 (笠間芸術の森公園内), tel.0296-70-0011. 2003/8/23-10/5 (月休;月祝開翌火休), 9:30-17:00 1920s前後に活躍した Russia の Avant-Garde の影響下にあった陶芸作品を 紹介する展覧会。Avant-Garde の展覧会は美術やデザイン関連でいろいろ 開催されているが、陶芸という分野は珍しかったので、笠間まで足を伸ば してきた。その甲斐のあった、楽しめた展覧会だった。 やはり、最も印象に残ったのは、シュプレマティズムや構成主義の作家たち による食器類。Kazimir Malevich のティーセット (1923) のポットの 「機関車」とも形容される重機械的な形態はとてもかっこいい。今でもなかなか 無い、シンプルかつ斬新なフォルムだろう。Malevich の弟子 Nikolai Suetin による飾瓶 (1932-33) は、Melevich の _Architekton_ をそのまま飾瓶に したようで、しゃれている。Suetin の作品はどれも日常的に使いたいと 思わせる魅力があり、ティーセットにても、単純な幾何模様ながら色と配置に 動きとリズムを感じてとてもいい。一方、Vladimir Tatlin やその弟子 Aleksei Sotonikov の柔らかく流れるような形の吸呑やポットも、可愛らしくて 気に入った。こういった食器や花瓶は、今ならシンプルなデザインということで 似たような製品はあると思うが、当時は斬新だったんだろうと思わせるだけ のものがあるし、その元祖的な風格を感じるところも、復刻されたら買って 使いたいと思うくらいだ。 一方、Sergei Chekhonin らの「ソビエト帝国様式」とも呼ばれる一連の絵皿は ちょっとキツイかなぁ、と思うものもあった。スローガンと抽象化された紋様を あしらったものなどは、悪くないのだが。同じスローガンを配したものにしても、 絵皿のようなノーベルティ的なものよりも、より比較的匿名度の高い日用的な 食器類の方が、良いように思う。歯車や工場機械、トラクターなどをモチーフ にしたティーセットやマグなど、今ではそういうモチーフが使われるのが稀に なっているように思うだけに、むしろ新鮮なカッコよさすら感じる。 この展覧会のもう一つのウリは、『ロトチェンコ・ルーム・プロジェクト』だろう。 当時のアーティスト Aleksandr Rodchenko と Varvara Stepanova のデザインを 再現するプロジェクトなのだが。デザイン画だけで当時は実作の無かったティー セットの制作だけでなく、陶芸からさらに広がって、1925年のパリのアールデコ 博に出展された労働者クラブの家具や、写真で残っている衣服の再制作をしている。 物があっても着たり座ったりできるわけでないので、今まで図版で見ていた印象を 大きく覆すようなものではない。むしろ、その再現の工程のドキュメンタリー ビデオの方が面白く見られた。労働者クラブの椅子が三本足のため、安定した 座り心地に仕上げるのが難しい、ということを知ったり。 そう、Malevich や Tatlin やその弟子筋がそれなりに陶芸作品を残しているのに、 Rodchenko 界隈がほどんど残っていないのが意外だったのだが。制作のビデオを 見たり、カタログのテキストを読んでいて、Rodchenko のデザインの考え方が、 素材の持ち味に大きく左右される陶芸向きじゃなかったんだということを知った のも、ちょっとした収穫だった。Bauhaus の陶器工房も1920-25年と短命だった という。そういわれれば、1920s の Avant-Garde 関連の展覧会で、あまり陶芸を 観たことがなかったように思う。そういう意味でも、1920s Avant-Garde による 陶芸の展覧会というのは、なかなかレアなものなのかもしれない。 2003/09/28 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/