宮本 隆司 『壊れゆくもの・生まれいずるもの』 世田谷美術館, http://www.setagayaartmuseum.or.jp/ 世田谷区砧公園1-2 (用賀), tel.03-3415-6011. 2004/05/22-07/04 (月休), 10:00-18:00. 解体中の近代建築を捉えた『建築の黙示録』シリーズ (1983-) や阪神大震災直後の 神戸を捉えた『神戸 1995』シリーズ (1995)、ホームレスのダンボールハウスを 捉えた『ダンボールの家』シリーズ (1983-) で知られる写真家 宮本 隆司 の 日本初の回顧展だ。今までまとまって観る機会がほとんど無かったし、1996年の ベネチアビエンナーレ建築展で使われた『神戸 1995』の巨大プリントを使った インスタレーション (日本初) が観られるという点でも、とてもお薦めの展覧会だ。 彼を知ったきっかけが『建築の黙示録』の中野刑務所の解体現場の写真だった こともあり、この展覧会で1980年代以降の彼の写真を通して観ても最も良いと 思ったのは、やはり『建築の黙示録』シリーズだった。 Bernt and Hilla Becher をタイボロジーを思わせる正面性の高い構図で静的に 対象物を捉えた写真で、それが僕が彼の写真を気に入っている第一の点だ。 日本の写真家であれば、実験工房の 大辻 清司 からの流れを思わせる作風だ。 しかし、都心にそびえ出した高架を捉えた 『首都高速』 (1967)、ダム建設現場を 捉えた『梓川電源開発』 (1968) といった大辻の写真と比較すると、一見似たような 画面でありながら、ちょうど被写体の性格が反転している ―― 建設中もしくは 建設直後のものから解体中のものへ ―― ところがとても面白いと思っていた。 もちろん、この主題の反転は、日本社会の変化が反映したものだとも思うけれど。 歴史的建造物の解体というともすれば感傷的になりがちな題材と、そういう物を 排して物質性を強調するような撮り方の、絶妙なバランス感の面白さ (感傷を 全く排すせばいいとは思わない)、とでもいったところだろうか。『神戸 1995』や 『ダンボ−ルの家』が、彼の作品の中ではいまいち好きになれないのは、 そのバランスが若干崩れているように感じるからのように思う。 しかし、今回まとめて写真を観ていて気付かされたことは、杉本 博司 の写真の ようなミニマリズムのようなものと比べると、正面性にかなりブレがあることだ。 意識したのもというより作家の癖ではないかと思うのだが、特に消失点が下手に あるような構図が多いのだ。『九龍城砦』シリ−ズ (1987,1992,1993) などは、 むしろこれにより、迷宮の中に入り込んでいく感が浮かびあがってくる感もある。 『建築の黙示録』でのブレからも、解体現場に踏み込んでいくかのうな動きも 感じられるけれども、むしろ、主題の反転による力加減によって構図にブレが 生じているのではないかと感じられるところもあって、そこも面白く感じられる。 『ピンホ−ルの家』 (2000-) については、形式的な目新しさ以上のものはあまり 感じられないように思う。それに、カメラオブスキュラを使った作品は被写体に 違いはあるけれども 佐藤 時啓 も2000年頃から付くっている。流行か何かあるの だろうか。ビデオ作品『さかさま・うらがえし』は、まだ何がポイントかよく わからないけど面白いから撮り溜めて、とりあえず展示しているというような 印象を受けた。 今回の展示のもう一つのポイントは写真の展示方法だろう。足もと低く展示された 『ダンボ−ルの家』など、面白いけど、ストレートだなぁとも思ったりもした。 『九龍城砦』の縦並びの場合、被写体や構図との関係というか必然性がいまいち 見えなかったように思う。 展示の面白さといえば、やはり、日本初の『神戸 1995』の巨大プリントを使った インスタレーションだ。一枚の写真を何枚か縦長の帯状の紙に少しの重なりを 付くって分けてプリントしているのだが。通常は継ぎ目をちゃんと合わせて 掛けて展示しているのだが、今回では5センチほどの間をあけて掛けられている。 この隙間は Lucio Fontana のキャンバスの裂け目のような効果を放っている。 遠目でば何も問題無く写真のイメージを観ることができる一方、近づくほどに 写真というより白黒の模様が付いた紙の帯という感じになる。紙の傷んだ感じも その感覚を強めている。この、写真と物 (紙) の間のバランス感覚は、彼の写真 の被写体に感じる物語性のあるものと単なる物体との間のバランス感覚とも相似 関係になっているようで、とても面白く感じられた。 そういう展示の工夫もあっただけに、世田谷美術館の展示空間は、ちょっと味気無い ないようにも感じられた。むしろ、リノベーションした戦前の近代建築物とかを 会場にした方が良かったのではないか、と思う。 2004/06/06 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/