『ブラジル:ボディ・ノスタルジア ― 9人の作家による現代美術展』 _Brazil: Body Nostalgia_ 東京国立近代美術館, http://www.momat.go.jp/ 2004/6/8-7/25, 10:00-17:00. - Tarsila do Amaral, Miguel Rio Branco, Adriana Varejao, Mauricio Dias & Walter Riedweg, Lygia Clark, Ernesto Neto, Mira Schendel, Brigida Baltar, Rivane Neuenschwander. ブラジルの現代美術を紹介するグループ展は、ステロタイプなブラジルのイメージ が微妙に残った感じが楽しめた展覧会だった。実際、展覧会を貫くテーマの一つに 食人主義というのがあるのだが、このテーマはカーニバルに繋がるものだし、 ノスタルジアはブラジル音楽の特徴と言われるサウダージ感とも繋がるものだ。 展覧会のタイトルは、Lygia Clark の作品 _Nostalgia do Corpo_ から取られて いるのだが、その彼女のマスクの作品 (というか、パフォーマンスで用いられた マスク) にスパイス (香料) が仕込んであったのも象徴的なように、香りを意識 した作品が多かったのが印象に残った。 Lygia Clark は1960年代の作品が中心だったのだが、形式性の強い作風から パフォーマンスやコンセプチャル・アートに近い作品への展開など、まさに 正当なモダニストという感もあって、もっとも普通に楽しめた作家だった。 アナログ版視聴覚交換マシンともいえる _Goggle_ (1968) なども秀逸だった (この作品の写真が _October_ 誌の表紙を飾っていたこともあったようだ)。 実際、他のアーティストへの影響力もあったよう。MBP (Brazilian Popular Music) の歌手 Caetano Veloso も彼女に捧げた歌を作っており、他ジャンルへの 影響力もあったようだ。 香料を使った作品としては、2001年の Biennale di Venezia にも出展していた Ernesto Neto も作品でも、ストッキングと同じ生地で作られた伸縮変型した コクーンのようなの空間にラベンダーやバニラと思われる甘い香りのする香料が 仕込んであった。 香りはしなかったけれども、Rivane Neuwnaschwander の作品にもワザビなどの 香料で描かれたミニマルな作品があった。(全体としては、Wolfgang Leib に似た 雰囲気を持つ作品だった。) 嗅覚が視覚や聴覚と違い身体感覚を強く意識されるものということもあるし、 あまり具体的なイメージが無い所で香りを嗅ぐという行為は、目前で同時的に 起きているものを観る聴きするというより、「残り香」という言葉にあるように、 見聞きできない既に終ってしまったもの/去ってしまったものを嗅ぎ取るという 感覚を喚起させられるところもあり、まさに "Body Nostalgia" という企画に 合っていたのかもしれない。実際、展覧会でもっとも楽しめたのは、こういう 作品だった。 MBP以降のブラジルの音楽には興味があるので、中原 仁 による公演「トロピカリア :音楽・美術・映画・演劇のミックス・アート、その歴史と現在」の聴講を 含めて、その関連も意識して観たのだけれど。女性歌手 Marisa Monte のアルバム _Memorias, Cronicas E Declaracoes De Amor_ (Phonomotor / EMI (Brasil), 525990-2, 2000, CD) に合わせてのツアーの舞台美術を Ernesto Neto が手がけ ていたのを知ったのは、収穫だった。 音楽との関係といえば、Caetano Vesolo をはじめとして1990年代に入ってから レコードジャケットによく使われるようになった写真家 Miguel Rio Branco も 出展していた。正方形にトリミングされた写真が多かったこともあるが、メタな 視点を意識させるというより画面の美しさに拘った感じが、デザイン的だった。 4AD レーベルのレコードジャケットを連想させられるような写真だったのだが、 コンセプト的には、ゴス (Gothic) ではなくバロック (Baroque) のようだ。 2004/07/04 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/