『第2回府中ビエンナーレ ― 来るべき世界に』 府中市美術館, http://www.art.city.fuchu.tokyo.jp/ 府中市浅間町1-3 (府中), 042-336-337. 2004/12/11-2005/2/27 (月休;1/10,2/21開;12/24,12/29-1/3,1/11休), 10:00-17:00. - 照屋 勇賢, 石川 雷太, 磯崎 道佳, 池田 光宏, 安岐 理加, 増山 麗奈, 河田 政樹, 田中 陽明. 12/8の4人の作家 (石川、磯崎、増山、照屋) によるシンポジウムに合わせて観てきた。 全体の企画の善し悪しはおいといて、一人面白そうな作家を知ることが出来たという 点で収穫があった。シンポジウムに参加した作家の印象の方が強くなりがちなので、 そうでない作家の面白さを見落してしまったかもしれないが。 今回の展覧会で最も印象に残ったのは 照屋 勇賢、この展覧会で初めて知った作家だ。 沖縄出身で現在 New York を拠点に活動している。沖縄の文化的アイデンティティ、 米軍基地問題といったものをかなり直接的に扱った作品を作っているにもかかわらず、 スマートで、かつ地に足がついているという感じがとても良かった。今後、要チェック のアーティストだろう。 今回のビエンナーレに合わせて制作した作品は、2004年8月にあった米軍ヘリ墜落事故 の墜落現場で子供たちを集めてワークショップとして写生会を行ない、現場の絵を デリバリ用のピザボックスの内側に描いてもらい、そのピザの箱を床に並べて展示 するというもの。箱は絵を内側に整然と並べられ、観賞者が箱を開けて中の絵を見る ことになる。なぜピザ箱なのかというと、墜落直後に米軍が「事故現場から日本の 警察、地元政治家、東京から来た外交官を締め出し、その一方でピザ配達のバイクは 手招きして中に通した」という地元住民を怒らせるような事件があったから。その話を 報じる米国の新聞記事 "A Crash, and the Scent of Pizzatocracy, Anger Okinawa" (The New York Times, 2004/09/13) が、ピザ会社のロゴや説明書きかのように デリバリ用ピザ・ボックスに刷られていた。 ワークショップという制作手法も使いつつ記録の雑然とした陳列にならず、絵を内側に 閉じて整然と並べられた箱というミニマルな展示はフォーマルな端正さもあり、 米軍ヘリ墜落事故現場の様子を描き伝えるという直接的なメッセージもありながら、 「デリバリのピザのように規制・制約を擦り抜ける情報伝達としてのアート」という メタな視点も作品にしっかり内包している、シリアスな題材ながら、ビザ箱らしい デザインや表現をパロディにして新聞記事をアレンジしたものにはユーモアも感じ られるという、非常にバランスの良い作品だ。 直接的なメッセージの部分についても、「沖縄米軍基地の是非」「日米同盟の是非」 のようなマクロな話にいきなり飛ばすに、「ピザ配達事件」のエピソードという ミクロでありながらマクロな状況への繋がりもある話をうまくすくい上げるセンスも、 「ビザ配達事件」を中間レベルの一記号として扱うのではなく記号化できないような 小学生の生の写生の集積として扱うセンスも、地に足がついていて社会的な奥行を 感じられるのが良い。このような題材と表現手法のバランスの良い処理が実に スマートで、カッコよい作品だ。これで、シンポジウムの時の「贋1ドル札」という 私的だが「ビザ配達事件」に繋がる話まで作品に組み込まれていれば、もっと 良かったのだろうが。 シンポジウム後の「沖縄からの風 〜 琉球舞踊の精華」という琉球舞踊の公演も観た 照屋 勇賢 制作による米軍基地をテーマにした紅型 (ビンガタ) の衣装も、戦闘機や 落下傘兵のモチーフが目立ち過ぎることなく処理されていて良かった。その紅型を 着ての 宮城 茂雄 の舞いも良かったが、来年予定されているらしい 照屋 勇賢 + ネーネーズ & ダンサー (@ 『もう一つの万博』) も、とても気になる。 石川、磯崎、増山、照屋によるシンポジウムは、石川・増山のアプローチ・作品の 世界観と磯崎・照屋のそれが対称的なのが印象に残った。前者が演繹的、後者が 帰納的とでもいう感じで、今の自分には後者の方が地に足が付いた感じがして好み ではある。しかし、前者のアプローチは、「自分の内面的な問題と地球規模の カタストロフとか戦争とかそういうようなものが同じラインで描かれてしまう」 「国家とか組織とか民族とか中間が無い」作品という点で、アニメやライトノベル などの分野で言われる「セカイ系 (ポスト・エヴァンゲリオン症候群作品)」の作品 と共通点があり、現代の一つの典型的な世界観をよく反映しているようにも思われ、 それはそれで興味深かった。 2004/12/18 (2004/12/12) 嶋田 Trout Fishing in Japan 丈裕, http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/